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当選に必要な市町村議員の票の数は?
一票の格差は、選挙区ごとの国会議員定数で話題になる問題です。あるエリアの代表として国会という同じ土俵に上がる国会議員を送り込む国政選挙で、鳥取県など人口が少ない地域と、東京都など人口密集地帯における国会議員1人あたりの得票数の比について2倍以上あることは違憲とされてきました。 2016年に衆議院議員小選挙区の格差について0増6減して1.98倍の差としたことについて、2018年12月の最高裁判所で 合憲という判断がされました。
地方選挙に目を向けて、2019年4月21日に統一地方選挙が実施されて新しい市議が選出されました。同じエリアで市町村議員を選ぶ選挙では1票の格差の問題はありませんが、住んでいる市町村によって当選に必要な票数には多くの差があります。東京都多摩地区の26市で比較すると人口最大の市である八王子市では議員定数が40で最低得票数が2,847票、人口最小の市である市の羽村市では、議員定数18で最低得票数595票と、市民の代弁者を地方議会に送り込むときに必要な有権者の数は、4.78倍の差あります。土俵(市の人口、面積)が違うから得票数も、違うといえばそれまでなのですが、市町村議員になりやすい市とそうでない市と、差があるのは事実です。 東京都多摩地区の2019年4月の市町村議員選挙結果と直近の市町村議員選挙結果から適正な議員定数を考えてみました。
そもそも市町村議員の仕事は?
市町村議員の仕事はそもそもどのようなものか、予算の承認と決算の認定、条例の制定・改廃、市民から出させる陳情・請願の審議・議決、国・都道府県への意見書の審議・議決提出などを行います。市議会での議決は市の意思決定とみなされます。市議会を通じて行政へ質問、意見することで、市町村長とは別の選挙で選ばれた市民の代弁者として、市町村政に対して提案、批判、意見することで、監視(チェック)するのが役割です。市議会は、3月、6月、9月、12月の4回の定例議会と予算・決算ほか各種委員会での審議、その他の一部事務組合への出席などがありますが、議員としての公務で拘束される勤務日としては少ないです。しかし、市議会議員の仕事は、それだけにとどまらず、身近な道路の補修、騒音の問題、公共施設の利用形態、保育園不足の問題、公共施設の空調の問題、環境問題、迷惑施設への対応など、あらゆる身近な問題について市町村や適切な行政施設に対する相談窓口になっているのが実態があります。市議にもよりますが、よく働いている議員は相談も多く労働時間はサラリーマンより長いかもしれません。
そもそも市町村議員に定数はあるの?
市町村の議会の議員の定数は、地方自治法の「第91条 市町村の議会の議員の定数は条例で定める。2 前項の規定による議員の定数の変更は、一般選挙の場合でなければ、これを行うことができない。」とあるため、各市町村の条例で決めて良いことになっています。定数変更は選挙のときに有効になるという規定です。総務省の自治行政局行政課による 「地方議会制度等について (2017年6月23日)」によると、 全国の市議会議員定数に関する調査(H25.12.31現在) を行っており、以下のように市町村の人口規模に応じて、議員定数は増加するものの、住民一人当たりの議員の数は増えています。人口が多い市町村ほど、市町村議員になるための障壁は高くなる傾向があります。
次に地方議員の数の推移を見ていきます。年々減少していることがわかります2000年台前半(H14からH19)までに主に行われた市町村合併された際に2万4千人以上減少していますが、市町村数の推移のグラフと比較するとわかりやすいです。
しかし、市町村合併が一段落した2010年(H22年)以降も市町村議員数は減少を続けています。これは国だけではなくほとんどの基礎自治体の財政事情が、主に扶助費(福祉関連の予算)の増加により悪化しており、ほとんどの予算が毎年カットされているという背景があります。
多摩地区の市議選結果から考える市町村議員の適正な数
表1.多摩地区 2019年4月現在、直近の市町村議会選挙結果、その1
表2.多摩地区 2019年4月現在、直近の市町村議会選挙結果、その2
表は多摩地区26市3町1村の有権者の多い順に左から右へ並べています。議員定数は、人口5万人から10万人、10万人から20万人の市が多いですが、総務省の全国平均の22人、26人に対して各市とも大きな差はありません。直近の議員数削減の動きを紹介すると国分寺市(有権者数約10万人)が2018年に24名から22名に削減、同じく2018年に国立市が、22名から21名に削減しています。そのほか最近議員数を削減した市町村の議席は濃いオレンジ色表記しています(すべての定数削減の動きがあった市町村をカバーしていない可能性があります)。なお同様な規模の有権者数の市で比較して相対的に市議の数が多いのは、小金井市の25名、狛江市の24名などです。
市議の定数を考える上で、以下のポイントで考察したいと思います。
- なりて不足の問題があるか?
- 市民が選択できる人数の選挙か?
- エリアをカバーできているか?
- 多様性を示す市議がいるか?
なり手不足について考えてみます。候補者が議員定数以下となり無選挙で当選というパターンは、全国の起きているようですが、多摩地区26市3町1村の2019年4月現在の直近の選挙では1件もありませんでした。候補者が議員定数を上回っていれば「なり手不足」ではないかというと、そうとは言えません。というのは得票数が著しく少ない市議が選出されては民意を受けたとはいいがたいからです。表で平均得票数から得票数のばらつきを示す標準偏差を引いた数字と最低得票数を黄色背景で表示しました。平均得票数が1700~1800くらいで、標準偏差が300台で、最低得票数1000少々で当選している東久留米市や昭島市では、最低得票数の市議のばらつきが多く民意を受けたというには少ない得票数と言えるかもしれません。得票数の少ない候補が当選することは「なりて不足」のサインと言えます。
市民が選べるだけの人数か?という点で考えてみます。議席数が最も多いのは八王子市、40名の市議定数。51名が立候補している。51名からどの市議の主張の考え方に賛同できるかは選ぶのは多すぎてわからない、という問題がおきてしまいます。そうなるとどうしてもルックス、年齢などわかりやすいところで選んでしまうことになります。東京都区部の選挙は、例えば世田谷区などは、75名候補者がいて50名が定数という議会もあります。多摩地区の多くの市のように30名程度なら選べるかというと、微妙でありますが、75名の候補者から1名だけ選ぶよりは真面目に考える余地があります。1名に投票するという選挙の仕組みを、適用するには限界があります。公職選挙法の第15条 6によると、「市町村は、特に必要があるときは、その議会の議員の選挙につき、条例で選挙区を設けることができる。ただし、指定都市については、区の区域をもって選挙区とする。」とされており、選挙区を定めて有権者が選択しやすくすることはできるようです。多摩地区は、人口5万人~20万人程度の市が多く、30数名程度から、20数名程度を選ぶという仕組みで成り立っている市が多いです。議席数がさらに多い市や東京都の区などは、選挙は東西や南北で選挙区をわけるなど仕組みが必要かもしれません。
エリアをカバーできる議員がいるか?について説明します。東京都でもっとも面積がひろい市町村は、奥多摩町です。しかし人口は5177人(2019年5月1日現在)と、桧原村についで少ない人口の基礎自治体です。町議会議員の定数は12。2015年11月の町議会議員選挙の際の議員一人あたりの有権者は403人。最低得票数議員は170で当選しています。市町村議員は地域独特の事情や課題に対応する 地域の代弁者という面もあります。人口がすくなくても面積が広い市町村は、人が住んでいる地域の代表として地元民を代弁できる程度い議員を選べる必要があるでしょう。
多様性を示す議員がいるか?という視点で考えます。自民党、公明党、立憲民主党、共産党などのような政党所属の議員で会派をつくって、国政政党と同じような主張をするだけの議会では多様性は示せません。地方議会から小さな問題提議をする無所属の議員も必要です。首長も複数の政党の推薦で当選となると、議会の行政に対する批判的な監視機能は弱まります。その逆に首長が立候補者に推薦を出して応援することも議員が、行政(首長)に対して遠慮することになるから望ましくありません。政党に所属しない本当の意味での無所属議員が、何人いるかも議員定数を決める上で重要です。 無所属議員が一人議会で、大きな政党と異なる問題提議や、新しい価値観で提案することが、考え方の変えるきっかけにもなることもあるでしょう。 普通に生活して大きな不自由がない市民からすると、議員の存在はほとんど意識することはないと思いますが、いざ自分の生活に支障をきたす出来事が起こると、急に市議会議員の存在を知り、その役割に期待するという事態になります。さらに住民がグループが 身近な問題で声をあげて、代表を議会におくりこむということもしばしば起こります。このとき得票数の敷居があまりにも高い大きな市では、当選が難しく実現しません。多摩地区の市町村議員の最低得票数の割合をみると、最も少ない八王子市は0.64%、2,843票、最も多い奥多摩町は、有権者数が4,834人ということもあり、3.52%、170票となっています。八王子市や町田市のように2000人以上の票を集めるのはかなり敷居が高くなり、市民候補は難しいかもしれません。1,000人程度の支持者を集めるのであればまだ現実味があり、実際、市民擁立候補が当選している例が小平市や周辺の市でもありますので、一つの目安といえるかもしれません。多摩地区の26市のうち、15の市が最低得票数が1000台となっており、適度に多様性を示す市議が選ばれる規模だと考えています。
以上で、なりて不足、市民が選択できる規模、エリアをカバーできるか、多様性を示す議員がいるか?という視点で考察しました。なりて不足は、最低得票数で当選してもバラツキの範囲に収まっていることが公平であること、市民がまじめに1票の選択できる規模には限界があるという点、エリアをカバーするための最低の議員が必要であること、多様性を示すためには最低得票数は1000台程度であることが望ましいという視点で考察しました。いろいろ議員定数について考察しましたが、一番大事なのは市議が行政の監視(チェック)機能として役割を果たしていることで、さらには市民が市議の監視をして評価できていることが何よりも大事です。それは選挙の投票率だけではありません。身近に起きている問題について住民が気軽に市議に疑問や意見をぶつけたりコミュニケーションし、議員も自分の支持者以外の意見にも耳を傾ける姿勢を持っていることが大事です。そのような議員が多くいる市町村が、魅力的な政策によって市町村の魅力を高めて住民の定住率が高まり住みやすい市として評価を高めていくというのが理想でしょう。
適正な議員定数について考察しましたが、行政の財政事情であれば市議の定数を削減するのではなく報酬を削減するという考え方もあります。夜間議会や、休日議会を増やして、報酬を副業の収入レベルまで下げるというのも一つの考え方です。ヨーロッパの地方議会は名誉職として考えられており、報酬は抑えられているという記事をみかけます。日本でも働き方改革の流れで副業を認める会社や、テレワークの会社も増えてきているので、財政事情から議員定数を減らす代わりに報酬を減らして、会社員+市議を想定した選挙制度を選択する市が出てくる可能性もあるかもしれません。それでも議員を目指したいという市町村は本当に魅力がある街と言えるでしょう。
以上(2019年5月20日)