政治・社会

2016年以降に実施された住民投票の課題と解決について

投稿日:2019年9月23日 更新日:

日本で実施された市町村合併に関する事案以外の住民投票を整理しました。2016年以降に全国の自治体で実施された住民投票では、成立要件によって不成立になってしまった事例と、沖縄県民投票のようにその結果が全く考慮されることのない事例がありました。私は、小平市で2013年に実施された住民投票の運動に関わっており少なからず全国で実施されている住民投票に関心を持っており、最近の住民投票が小平市と同様、投票率1/2以上の成立要件で不成立、開票に至っていないことから危機感を感じてブログにまとめることにしました。

住民投票に関連するブログは以下の通りです。

  • 2019年12月に実施された御前崎市における産業廃棄物処理施設の設置の住民投票についてはこちらを参照ください。
  • 2013年6月に実施された都市計画道路3・2・8号線についての住民投票についての小平市長小林正則氏の著作「住民投票」を読むについてはこちらを参照ください。
  • 市町村合併以外の住民投票の過去の事例はこちらにまとめています。

では、2016年以降の住民投票の実例を見ながらこれらの課題解決についてまとめてみたいと思います。以下の流れで解説します。

住民投票制度の目的

日本では国政においては、衆議院議員と参議院議員を選挙で選ぶことで、国民の意思を政治に反映することができます。地方自治においては、自治体の長(市長など)と、議員(市議会議員など)をそれぞれ選挙で選ぶことで政治に住民の意思を反映させることが出来る間接民主主義で成り立っています。

住民投票制度は、個々の事業(事案)について直接住民の意思を表明することで政治に参加する制度として用意されたものです。選挙では個々の事案が争点になる場合もありますが、個々の事案は争点にならずに選ばれた首長が事業を推進する場合もあります。日本では住民投票は諮問型と言って拘束力はないものとされており、最終的な判断は首長が行うことになります。実際これまで実施された住民投票についても、「その後に行方」の列を見ていただくと、背景黒塗りのところは、投票結果が反映されなかった例です。しかし民意を無視した政治を続けると選挙で落選するため首長も結果をないがしろにすることはできないため多くは住民投票の結果が反映されています。つまり、住民投票制度は、個々の事業(事案)について直接住民の意思を明らかにすることで 間接民主主義を補完するものだといえます。住民の政治への関心が高まり個々の事業(事案)にチェック機能を果たすようになり民主主義はより成熟したものになります。

住民投票は、憲法95条に基づく地方自治特別法の制定による住民投票、地方自治法に基づく住民投票、合併特例法に基づく住民投票、大阪市で実施された大都市地域特別区設置法に基づく住民投票、各自治体で制定した常設型住民投票などがありますが、詳細はここでは解説しません。 住民投票には、有権者による直接請求、市長提案、議員提案がありますが、手順などについてもここでは省略します。 以後は、地方自治法に基づく住民投票と、いくつかの各自治体で設けられている常設型住民投票条例に基づく住民投票の事例について記述しています。

首長が、住民の声を反映させる機会としては、議会における議員からの質問、自治体行政の行う住民向けのアンケート、ワークショップや説明会、パブリックコメントなどの場があります。とくに地方自治体における議会は、首長と並ぶ、もう一つの意思決定最高機関であり住民の様々な意見を反映させる場であるべきです。地方自治体の首長や、議員がしっかり民意の反映に努めていれば住民投票などは実施しなくても良いのです。

しかし現実には議会がチェック機能を果たせしているといえる地方議会は或いは地方議員はそう多くはいないのが私の実感です。また、自治体行政が行う住民向けのアンケート、ワークショップや説明会で、住民の意思を反映させることができているか、というとこれもまた疑問を持たざるを得ません。大きく分けて二つの要因があると言えます。

一つ目の要因はアンケートやワークショップ、説明会を行う際には、既に自治体行政側では方針が決まっているケースと、本当に市民の意見を聞いて政策に反映させようというケースと二つに分かれますが、現実には前者が多く、実際にはアンケートにしても、ワークショップや説明会ではアリバイ作りの要素が強く、住民の声を「聞き置く」だけで政策の方針に反映されない場合が多いです。

つまり、間接民主主義である選挙で選ばれた首長、議員に政治を委ねていたら住民の意思が十分に反映されないケースがあり、間接民主主義を補完する住民投票が有効になるということになります。

自治体に権限があり自治体で方針を決めてしまっているケースについて、住民投票が有効な場合もあります。 2015年に実施された住民投票 の表のNo.25の 埼玉県所沢市の小中学校の除湿(冷房)工事についての賛否(市長は小中学校へのエアコン設置に反対だった)について の例や、No.31のつくば市の総合運動場建設の例(市長は運動施設建設を推進していた)、No.32の愛知県小牧市のツタヤ図書館建設計画(市長はツタヤを指定管理者とする図書館を推進していた)などでは、住民投票の結果を受けて市の方針と異なる方向に変っています。

もう一つは、地方自治体の長に権限が及ばない事案、国の方針ですすめなければいけない事案などで、首長は拒否しづらい場合が多いことが原因にあります。最近では、沖縄の辺野古への基地移設問題(1996年、1997年、2019年、詳しくはこちら)や、横浜市の統合型リゾート(IR)(検討中)などが例があります。

自治体の長に権限が及ばない住民投票の例として、2019年に実施された 辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否 の住民投票があります。投票結果である民意は全く考慮されずに、辺野古の埋め立ては続いています。この問題は国防の問題であり、その本質は国民全員で考えていかなければなりません。この問題については後述します。

住民投票の意義

住民投票は、有権者による直接請求、首長提案、地方議員による提案、それぞれありますが、単に多数決で決するという考え方では実施すべきではありません。住民投票の発案者は、問題意識があり自分としての解決案を持っていると思いますが、その解決案を広めていくことは必要なのですが、それ以上に、地域で問題を共有して課題を解決していくという姿勢がなくてはいけません。とくに発案者と異なる意見の住民の声を聴くという姿勢が何よりも大切です。住民投票に至る過程において住民、市長、行政、議員、それぞれの意見が深まっていくことが大切です。住民投票を実施するには税金を使うものだということを忘れてはいけません。

では、住民投票の意義はどんなところにあるのでしょうか?住民のニーズ(住民の望むもの、望まないもの)の把握が第一でしょう。第二に住民の参加意識が高まり、自治体の価値をあげることにつながるという点であると考えています。

前項で記述した、とくに首長が方針を決めて推進している事業(事案)については、自治体の首長にとって、住民投票は事業の邪魔をされるという迷惑な存在として映るかもしれません。 しかし、住民のニーズ(望むもの、望まないもの)を正確にとらえることが出来るともいえます。住民がニーズに合わない事業をすすめることは民主主義に反するわけで考慮しないといけないでしょう。 その事業は変更できない段階に来ているとしても以後の政策を考えるうえで参考にすべきでしょう。

自治体の権限が及ばない事業(事案)については、住民のニーズが明らかになることで、上位の行政(市長村→都道府県→国)と対立することで自分の立場が危うくなるということを気にするケースもが多いでしょう。しかし、自治体が住民投票を通じて意思表明することで、より広い範囲での議論が始まるのです。広い範囲で議論が始まり、新たな解決策や、新たな世論が形成されていく可能性があります。

住民投票の見え方(ニーズの把握)

行政側(首長の見方) 見方を変えると
首長(行政)がすすめたい事業の邪魔をされる

住民のニーズ(望むもの、望まないもの)の把握

自治体の権限が及ばない事案、関わりたくない 自治体が意思表示することで、より広い範囲で議論が開始されて、解決策が見つかる可能性がある

*)住民投票は、その事案についてだけではなく、将来の類似の政策・事業(事案)や他の自治体の類似の政策・事業(事案)などにも影響を与える将来について考える材料となる。

第二の意義として住民の参加意識が高まるとはどういうメリットがあるのでしょうか。住民から活発に意見が寄せられる自治体は、首長、議員、行政職員の仕事が増えるというマイナスの見方も出来ますが、それだけ緊張感をもって働くことになりますので、行政サービスの向上につながります。行政のことを真剣に考える住民が増えることで、自治体がこれから向き合わないといけない、住民のとって望ましくない公共施設再編(削減)などの問題についても、住民の意識が高まれば理解が得やすくなり進めやすくなります。日本全体として人口が減少して自治体間で人口の奪い合いが始まっている現状にあるため、住民の参加意識が高いことは、行政サービスの質が高く、財政も健全な状態を維持して、住民に定住することを選んでもらえるようになり、住民税・固定資産税などを維持できるという好循環につながります。

投票率1/2以上の成立要件に阻まれた住民投票の課題と解決方法

2016年以降に実施された住民投票が、投票率が投票資格者の1/2以上に至らない場合は、住民投票は無効とするという自治体がつくった常設型の住民投票条例の縛りをうけて、住民投票に至ったものの結果が開票されず、不成立で終わってしまった住民投票が3件(No.38,39,41)も続きました。この1/2以上の投票率の成立要件は最悪のルールです。

常設型といって1/3の有権者の署名を集めることで、市議会で過半数による議決なしで住民投票を実施できるという常設型住民投票条例を 2002年 に日本ではじめにつくったのが愛知県高浜市。直接請求による住民投票は、議会で住民投票条例が否決されることが多く、実際にはなかなか住民投票には至らないのが現実です。その敷居を下げるために作られたのが常設型住民投票条例のはず。しかし、このときに投票率1/2以下の場合は不成立、未開票というルールをつくったのが間違いの始まりでした。以後も多くの常設型住民投票条例をもつ市は、 高浜市の条例にならって1/2投票率の成立要件をつけるようになってしまいました。

その高浜市で2016年11月に実施された「中央公民館取り壊しの賛否を問う住民投票」、有権者 35,530人の1/3を超える13,313人の署名を1か月で集めて、住民投票に至りましたが、投票数は 13,034 と署名数より少なく、36.6%と1/2投票率の成立要件を満たさずに、開票されずに不成立で終わりました。 市は、財政上の理由から公共施設の再編を進めており議会でも議決されていることから、中央公民館を取り壊して病院に変えるという計画を進めており、住民投票後に計画通り病院の分室を建設する方針を発表しました。直接請求を求めた住民グループは、公民館としての継続を求めていたようです。開票されないため住民の真意はわからないままに終わってしまいました。

石川県輪島市で2017年2月に実施された「 大釜における産業廃棄物最終処分場建設の賛否を問う住民投票」。輪島市の常設型住民投票条例は、1/6の有効な署名があれば、議会での議決なしで住民投票を行うことが出来る条例です。やはり投票率1/2以上の成立要件があります。有権者約24,602人に対して 8,185 という3割以上の署名を集めて最終処分場の賛否を問う住民投票が実施されたが、投票数10,338で投票率が42%で、開票されずに不成立に終わりました。やはり開票されないため住民の真意はわからないままに終わってしまいました。なお2017年2月の輪島市議会での市議の質問のやりとりを見ると輪島市の梶文秋市長は、投票に行かないことも選択肢の一つと呼びかけており、住民投票を否定するという暴挙を行ったことがわかります。今後も悪い住民投票の例として歴史に残さなければ行けません。

2019年2月の輪島市議会の議事録抜粋します。「民主主義の社会では、投票の自由が保障されなければなりません。あわせて投票の秘密も守られなければなりません。しかし、今回の住民投票は、市長の「賛成の人は投票へ行かないのも選択肢の一つ」発言や自民党拓政会の市議の皆さんの「住民投票に行かないことで民意を示してください」と棄権を呼びかける行動によって、投票の自由も投票の秘密も守られませんでした。そのため市の職員や家族、市発注の事業を受けている業者や、その家族の多くが投票に出かけることができませんでした。こうしたやり方は、投票妨害ではないかとの怒りの声がありますが、どうお考えですか?」(輪島市議 鐙 邦夫氏/ 日本共産党 )

「投票の棄権を呼びかけるやり方は投票妨害ではないかとの怒りの声があるが、どう考えるか、それから、投票に行かないのも選択肢の一つとの発言については、住民投票条例そもそもの趣旨に反している、条例の趣旨にのっとっていると言えるのかどうか、また、住民の意思表示について、この権利を放棄するよう促すという今回の手法への見解ということでありました。
 今回の住民投票については、この間たびたび申し上げておりますけれども、建設に反対をされる皆様が発議したということでありまして、それに相反する意見を持つ、いわゆる賛成をされる皆様が棄権を呼びかけるということについては、今回の住民投票における考え方の一つでありまして、投票妨害には当たらないと考えております。」( 輪島市長 梶文秋氏 )

この梶市長の認識だと住民投票を呼び掛ける住民は中立の立場でないと直接請求してはいけないととれるような発言で、住民投票制度そのものを否定するような発言です。市議の質問にある通り、投票に行く人が産業廃棄物処理施設の反対派と思われることで投票に行きづらくなったというのは、多かれ少なかれ事実でしょう。まさに投票権を奪い取った人権侵害にあたると言っても良いでしょう。このようなひどい住民投票つぶしを行った梶市長、その後、2018年3月の市長選では4選をかけて自公推薦で立候補し、元市職員の林平成人氏を67票差で破っています。僅差とはいえ有権者の指示を得てしまってのも大変残念です。

滋賀県野州市で2017年11月に実施された「 野州駅南口私有地に市民病院を整備することについて、駅前整備か、私立野州病院を改修するかを問う住民投票」は、野州駅南口私有地に市民病院をつくる方針の市長に対して、慎重な姿勢の市議9名(議員定数18名)が発議した住民投票条例です。野州市もやはり常設型住民投票条例が2009年に準備されており、 市議会は、議員定数の12分の1以上の者の賛成を得て議員提案され、かつ、出席議員の過半数の賛成により議決となっています。やはり投票率1/2以上の成立要件があります。投票数は、 41,361 で投票率が44.91%で開票されず不成立に終わりました。やはり開票されないため住民の真意はわからないままに終わってしまいました。

さらに静岡県の浜松市で2019年4月に実施された「区の再編に関する住民投票 」では、なんと常設型住民投票ではなく、議員提案による個別型の住民投票であったにも関わらず、1/2以上の投票率の成立要件がつけられていました。 647,801人も有権者がいる大都市にも拘わらず、 360,260人で55.61%の投票率で成立要件に達したため開票されたので事なきを得ています。経緯を追いかけると、平成30年の11月の市議会定例会で、ある委員(市議)から「少数の意見でも成立するとなると、それが民意であるかどうかの判断が難しいことから、一定数以上の投票数をもって成立要件と考えている」という議事録が残されておりました。浜松市で実施された2019年7月の参議院選挙ですら投票率は52.6%とやっと投票率1/2を超える程度の投票率であるにも関わらず、市議からこのような妨害としか言えないような成立要件をつけることについては、まったく理解できません。

投票率に成立要件をつけるのは、浜松市の市議が言うように、投票率が少ないと民意とは言えないということならば、選挙はすべて、1/2以上の投票率の成立要件をつけないといけないことになります。実際には多くの自治体で1/2に満たない投票率で市長、市議が選ばれているのが実態ですから、住民投票に1/2の成立要件をつけるのは大きな間違いです。住民投票の意義は、 住民のニーズ(望むもの、望まないもの)を把握することにあります。投票率に成立要件をつけて非開票としてしまうと、首長も議員も住民も、そのニーズを把握できないまま終わってしまうため、まさに住民投票から得ることは一つもなくドブにお金を捨てるようなものになってしまうのです。そもそも日本の住民投票には法的拘束力はない諮問型なわけですから、投票率が低ければ低いなりの判断をして首長が方針を決めればよいのです。

では、成立要件の問題をどうすれば良いのか?少数の意見では民意とは言えないということならば、得票率を成立要件とするのが正解です。選択肢のうち1つが有権者の1/4以上の得票数となった場合は結果を尊重するという要件を付ければ良いのです。2019年2月に実施された沖縄県で実施された辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票が この方式でした。なぜ1/4かというと、1/2の人が投票に行ってその1/2の人が、1つの選択肢を選んだことに相当するからです。

現在、常設型住民投票条例をもつ自治体は、60以上あるようですが、2000年代に制定された高浜市をはじめとする常設型住民投票条例の多くがこの1/2投票率の成立要件をつけていますので、改めて議会で議論していただき、住民投票は必ず開票して、有権者の1/4以上の得票数となった場合は結果を尊重するという 常設型住民投票条例に改変をしていただきたいと思います。

なお、2018年11月24日、当一地方選挙とともに、台湾で10件の国民投票が行われました。台湾の公民投票法では、有権者(1975万7067人)の4分の1(493万9267人)が賛成すれば成立するという成立要件を設けていました。この結果、10件のうち、7件の国民投票が成立しています。なお、2017年の12月の公民投票法の改定で、国民投票実施のためには5%から1.5%の有権者の署名で実施できるように引き下げられて、296,356以上の署名が集まれば国民投票できるということで、台湾では住民参加の機会が増えたようです。まるで国民投票が盛んなスイスのような状況です。日本は経済的にも技術的にもアジア諸国に追いつかれて抜かされている分野が増えていますが、民主主義においても台湾には既にぬかされているかもしれません。

権限が及ばない事項の自治体による住民投票の課題と解決方法

常設住民投票条例は、それぞれの市でその内容が異なるのですが、対象事項が定められています。その多くが、対象条件として「市および市民に重大な影響を及ぼすもの」としており、その多くに除外項目があります。「市の権限に属さない事項」は除外するという記述です。市の権限に属さない項目を住民投票で突き付けられても、自治体としては、対応できないということなのでしょう。 「市および市民に重大な影響を及ぼすもの」 を対象とするのはそれはその通りだと思いますが、この除外項目 「市の権限に属さない事項」 非常に違和感を感じます。図1にまとめましたが、住民投票実施者である自治体が権限も持っていることのみ住民投票を実施することが出来るとしています。

図:常設型住民投票の制限:自治体の権限が及ぶ事項

しかし、自治体に権限に属さない事項でも住民投票されることもあります。その例が、No.44の2019年2月に実施された沖縄県の辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票です。米軍の普天間基地の辺野古沖への移転は、1996年のSACO合意に基づいて、 日米安全保障協議委員会(2+2) で間で決めたことです。日本政府の対応にまずい点があり、海上ヘリポート案が、沿岸埋め立て案となり、さらに軍民共用化、15年期限付きなどの沖縄県の要求がすべて無視されてすすめられたため県と国の対立は決定的になってしましました。詳しくはこちらをご覧ください。

https://runkodaira.com/politics/futenma1-onaga/

普天間飛行場移設問題を考える。なぜ翁長前知事は辺野古移設反対に踏み切ったか

沖縄県は常設型住民投票条例を持っておらず、県民投票条例は直接請求によって住民がつくった条例です。県議会では辺野古埋め立てに賛成、反対に加えて、どちらともいえないという選択が追加されていますが、その内容は大きく変更されていません。もし沖縄が常設型県民投票条例を持っていて、その中に、「県の権限に属さない事項」については除外するという項目を持っていたら、辺野古米軍基地建設のための埋め立ての是非を問う県民投票条例は、議会で否決されていたかもしれません。

図2:沖縄県民投票の場合、県民投票実施者と権限について

図2に、沖縄県民投票の受益者、受苦者、実施者、権限の関係を整理しました。実施者である沖縄県は米軍基地建設について権限をもっていません。負担をうけるという意味で受苦者は沖縄県民になります。軍用地の地権者などは受益者、また沖縄県に住みながらが米軍基地があるから中国の脅威から守られると考える人は受益者ですが、そう考える人は県民投票の結果から少ないと読み取れるので受益者は沖縄県の中に枠の中に少しだけ含めています。多くの受益者は基地負担なく米軍が沖縄県にあったほうが国防を考える上で望ましいと考える県外に住み国民ということになります。そのほかに受苦者ではないが、県外の国民で辺野古埋め立てに反対の国民もいますので、橙色で表現しています。

沖縄県民投票で沖縄県民の意思を示しても沖縄県に権限がない事案なので意味がないと考えるのは間違っており、県民の意思がはっきりしたということで大きな意味があったと言えます。

表1:沖縄県民投票の投票率(県全体、宜野湾市、名護市)

  沖縄県全体

宜野湾市

(普天間基地の市)

名護市

(辺野古の市)

当日有権者数 1,153,600 76,789 49,301
投票総数 605,385 39,788 24,882
有効投票数 601,888 39,582 24,748
投票率 52.48% 51.81% 50.47%

表2:沖縄県民投票の得票率(県全体、宜野湾市、名護市)

  県全体 宜野湾市 名護市
  得票数 得票率 得票数 得票率 得票数 得票率
賛成 114,933 10.0% 9,643 12.6% 4,455 9.0%
反対 434,273 37.6% 26,439 34.4% 18,077 36.7%
どちらともいえない 52,682 4.6% 3,500 4.6% 2,216 4.5%

沖縄県のホームページより引用、得票率は計算による

普天間基地がある宜野湾市民も、米軍基地のために辺野古の埋め立ることについて、34.4%の有権者が反対しており、名護市の36.7%には及びませんが、得票率の1/4以上の尊重要件を超えており、どちらの市でも3人に1人以上が辺野古への埋め立て(辺野古移転)に反対しており、普天間基地の辺野古への移設が両市民にとって解決策になっていないと言うことを意味しています。受苦者である名護市民だけでなく、普天間基地が移設されることで危険が除去されるという意味では受益者である宜野湾市民も3人に1人以上が辺野古埋め立てに反対しているという事実が明らかになっています。私にとっては驚きの事実でした。

この結果を受けて、本来ならば権限を持っている日本政府は、一度、辺野古の埋め立てを中止して沖縄県と協議すべきです。しかし、現実には何の考慮もされておらず辺野古埋め立ては進んでおり対立は深まるばかりですが、沖縄県民でない私のような東京に住む国民も関心を持って、沖縄県の基地負担の問題について解決策を考えることは大きな意味があると思います。つまり多くの市の常設型住民投票にある 「市の権限に属さない事項」 を住民投票の除外項目としているのは良くないと考えます。

常設型住民投票条例の各市のものを比較すると、「市の権限に属さない事項」 について逃げずに記述している例はないか調べると、掛川市の(常設型)住民投票条例が秀逸でした。第二条の2を見ると、

(1) 市の機関の権限に属さない事項(市の意思として明確に表明しようとする事項を除く。)

となっており、市として意思を表明することは否定しておりませんでした。投票資格者には永住権をもつ外国人も含まれて、直接請求の場合、投票資格者のは1/6で住民投票を実施することが出来るとされており、成立要件もつけずに市議会及び市長は 結果を尊重するように努めるものとするされており、全体的に良い条例であると感じました。2014年に制定されたようで、失敗した住民投票の例なども十分に研究してつくったものだと思われます。

全国の常設型住民投票条例をもつ自治体は、1/2の投票率による成立要件を、1/4の得票率の尊重要件に変えるとともに、除外項目から、市の機関の権限に属さない事項(市の意思として明確に表明しようとする事項を除く。) という注記をつけるように条例を改変していただきたいと思います。

常設型住民投票条例が改変されて、権限を属さない事項について自治体が住民投票を行い意思を示すことが普通に出来るようになることになると、権限者も考慮せざるを得なくなると考えられます。解決とまでは言えませんが、まずは 常設型住民投票条例の見直しが第一歩なのかと考えています。

まとめ

  • 住民投票制度の目的は、 個々の事業(事案)について直接住民の意思を表することで住民が政治に参加することを目的としており、間接民主主義を補完する意味があります。
  • 住民投票の意義としては、第一に住民のニーズ(住民の望むもの、望まないもの)の把握であり、第二に住民の参加意識が高まり、自治体の価値をあげることにつながります。
  • 投票率に1/2以上の成立要件をつけて開票しない例が2016年以降、3件もありました。これは2002年以降、いくつかの自治体で作られた常設型住民投票条例で定められた成立要件によるものですが、住民投票の意義である住民のニーズの把握が出来なくなるため間違った成立要件です。どんな投票率でも開票して、その得票率に尊重要件をつける条例とするのが良いです。日本の住民投票が諮問型である以上、投票率、得票率に応じて首長は政策をきめる材料にすべきです。
  • 権限が及ばない事項の自治体による住民投票については、 これは2002年以降、いくつかの自治体で作られた常設型住民投票条例で除外項目として、定められています。しかし自治体に権限がなくても住民の意思を表明することで、上位の自治体や日本政府など権限者に考えさせる材料となり、自治体外で関心をもつ人を増やし解決につながる可能性が高まります。 掛川市の常設型住民投票条例のように、「市の機関の権限に属さない事項(市の意思として明確に表明しようとする事項を除く。)」 などのように意思表明することを除外しない常設型住民投票条例とすることが が望ましいです。

参考資料

自治体の政策過程における住民投票 岡本三彦

地方公共団体における住民投票制度に関する一考察  勝浦信幸・石津賢治

街づくりにおける住民投票 ― 2000 年以降の事例からみる 住民による 多数決のあり方に関する考察―  大滝優介

都道3・2・8号線の住民投票の研究 -小平の住民投票が提示した民主主義の諸問題 福地健治(2017年)

住民投票の現在 -小平市と北本市の住民投票を中心に- 高橋秀行

所沢市住民投票の研究 -なぜ市民は住民投票を選択したか- 高橋秀行

住民投票の課題 -つくば市と小牧市の住民投票を中心に- 高橋秀行

以上(2019年9月24日)

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