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2020年8月の静岡市清水庁舎移転問題と鹿児島県垂水市の市庁舎移転住民投票について

投稿日:2020年8月26日 更新日:

2020年8月7日、政令指定都市の静岡市の清水庁舎の清水駅東口広場への移転の賛否を求める直接請求による住民投票条例案は、静岡市議会で賛成8、反対36で否決されました。一方、鹿児島県垂水市では、2020年8月9日に、市庁舎移転に関する住民投票が市長提案で実施されて、賛成47.9%、反対52.0%で8年かけて検討してきた海沿いのフェリー駐車場跡地への移転は白紙になりました。

どちらの市も、庁舎移転問題ですが、浸水が想定されるエリアへの移転というころで市民から懸念の声があったということが共通しています。

市町村合併を除く住民投票は、47件の実施が確認できていますが、人口が多い政令指定都市では1/50の有権者の署名数が多いことと、エリアが広いため運動を広げるのが難しいため過去に実施された例はありません。静岡市の有権者数は有権者数の589,350人(2020/6/1)ですが、新型コロナウイルスの警戒下で中断をはさんで合計2か月の署名期間(政令指定都市では署名期間が2か月)で必要な署名数である有権者の1/50(2% 11,787人)を、大きく上回る8.8%、52,300人(葵区:14,092人、駿河区6,787人、清水区31,421人)もの有効な署名を集めました。清水区だけではなく、葵区や駿河区など清水庁舎を利用しない区民からも署名を集めており運動は、訴えるものがあったと言えます。

清水庁舎の移転問題は、住民への周知や意見反映が十分されていないまま決定されていったことへの主に清水区(旧清水市民)の不満が大きいのですが、移転先も津波浸水危険エリアであることに対する不安が背景にあり、垂水市と類似の問題でした。静岡市では垂水市と対照的な結果となり議会で住民投票条例案は否決されました。

市庁舎移転・改修をめぐる問題は、住民投票が実現しやすいテーマです。2012年鳥取県鳥取市、2014年三重県伊賀市、2015年には滋賀県高島市、長崎県壱岐市、愛知県新城市、大阪市和泉市、沖縄県竹富町、2016年には沖縄県石垣市、山梨県南アルプス市と9件と近年の住民投票の主流ともいえるテーマです。そのうち6件は住民投票の多数の結果に反映、新城市の1件はある程度反映と、行政側も投票結果に合わせて動いています。市庁舎の移転改修問題は市町村民全体に影響が大きく、決定権も市町村が持っているため議会でも否決する理由が見いだせないテーマだからです。

静岡市田辺市長は、「市民の意見集約が十二分に図られて市議会で意思決定した」として条例案を否定する意見をつけて静岡市議会に提出、議会でも圧倒的な多数で否決しました。意見集約が十二分に図られていないから、直接請求を求める運動に至ったわけで田辺市長、静岡市議会の姿勢には疑問を感じざるを得ません。しかし経緯を見てみると行政側も時間をかけて検討して起きており理解できる面もあり難しい問題であることがわかりました。どうすれば、市民から了承してもらえたのかの解も経緯をさかのぼると見えてきましたので後述したいと思います。

清水庁舎の移転問題は、市町村合併で行政単位が大きくなったことで起こる市民の不満、箱もの行政に対する市民の意識の変化、地方都市の人口減少問題、コンパクト化が求められる立地適正化計画の問題、行政の意思決定プロセスと市民参加の問題、地方自治法で規定されている議会制民主主義を補完するはずの直接請求による住民投票の扱いの問題、災害リスクとまちのにぎわいなど、2020年の日本の都市で考えないといけない様々な論点が凝縮された住民投票運動でした。

今回は以下の点から、垂水市で実施された住民投票と、静岡市で実施されなかった住民投票について考察して行きたいと思います。

垂水市の住民投票の経緯

垂水市の住民投票について簡単に振り返ります。

表1.垂水市庁舎移転問題の経緯

1958年現在の垂水市庁舎建設(築62年、現在の耐震基準満たしていない)
2011年3月東日本大震災
2012年2月庁内による垂水市庁舎建設等庁内検討委員会
2016年4月熊本地震
2017年6月学識経験者や市民代表で市庁舎検討委員会発足
2017年11月垂水市新庁舎建設基本構想、現在地建替案・移設候補2案、計3案提示
2018年2月垂水市新庁舎建設基本計画(案)公表、パブコメ34名、70件の意見
2018年3月垂水市新庁舎建設基本計画、海沿いフェリー駐車場後に移転にしぼりこみ、市による設計施工分離方式(従来通り)に決定
2019年8月垂水市新庁舎建設工事基本・実施設計業務 基本設計図書公開
2019年11月直接請求(署名839名)、フェリー駐車場後への庁舎移転計画の是非を問う住民投票条例、市議会否決(賛成6、反対7)
2020年5月直接請求(署名1,001名)、垂水市の位置を定める条例の改正を求める直接請求、特別議決で2/3に達せず否決(賛成7、反対7)
2020年6月フェリー駐車場後における新庁舎の実施設計と、37億37億2596円万4千円が、市議会で承認
2020年7月10日新庁舎建設を推進する4,468名の署名による請求により、市議会臨時会が開催。市庁舎移転条例が議会の全会一致で継続審議、市長提案による住民投票実施へ。投票結果に法的拘束力はないが、結果に従うと尾脇市長が明言。
2020年8月8月9日、新庁舎をフェリー駐車場後に移転についての是非を問う住民投票実施、投票率68.83%、賛成:4,080(47.9%)、反対:4,424(52.0%)で反対が過半数、8月10日、尾脇市長計画白紙を発表

図1.新庁舎外観イメージ(2020年4月の広報たるみず)

垂水市の現市庁舎は、1958年建設で老朽化して安全上の問題も出始めており、2012年から庁内での検討は開始されました。2017年からは学識経験者、公募市民を含める検討委員会により検討が開始されて2017年11月、海沿いフェリー駐車場移設案、市民会館への移設案、現状建替案の3案が基本構想としてまとめられました。2018年3月には3案から、基本計画を発表して、パブコメを得て海沿いのフェリー駐車場後に移転する案に決定されました。

2019年3月、住民グループから海沿いの庁舎に対しての移転先が浸水想定区域に指定されていることなどから、「防災拠点にふさわしくない」などという理由から直接請求により839名(必要な署名数有権者の1/50、257名)の署名とともに住民投票条例を提出するが、当初市長も否定的な意見をつけて議会に提出、議会では条例案は6:7で否決された。2020年5月には同グループから、今度は、1,001名の署名とともに市庁舎の位置を定める条例の改正を求める直接請求による条例が提出。議会は7:7で特別決議事項の2/3に達せずに否決されました。二つ目の直接請求の市民グループの狙いはよくわかりませんでした。とにかく審議させて決定を引き延ばしたかったのでしょうか。

2020年6月には、実施計画と総予算約37億円についての市議会での承認を得ました。一方、海沿への移転を推進する市民グループからは4,468名の署名とともに、早急に移転を求める請求があったが、市庁舎移転条例が継続審議になったと8月の市長日記にあります。これが地方自治法の直接請求を意味するものなのか、市議会でどんな議論がされたのかは、市議会のホームページからも詳細記述を見つけることができずに、具体的にはどんなものかはわかりませんでした。

実施設計と総予算が出たところで、尾脇市長は市民の真意を問うべきと判断して、市長提案で住民投票条例を市議会に提出して、住民投票は8月9日に実施されました。投票率68.83%、賛成:4,080(47.9%)、反対:4,424(52.0%)で反対が過半数、8月10日、尾脇市長計画白紙を発表しました。

何故、2019年の直接請求による住民投票には否定的な意見をつけて市議会でも住民投票条例案は否決され、2020年6月には実施設計・総予算が議会承認を得たにも関わらず、その後、尾脇市長から住民投票条例を提出したかはわかりません。

2020年7月広報たるみずからは、手書きの文字を使うなど、計画・予算に責任を持つことを示す尾脇市長の真摯な政治姿勢が伝わってきます。地方自治法による住民投票には拘束力はないとされていますが、市庁舎建替えは市が権限をもつ事項で自身も投票結果に従うと明言していたので、実質拘束力がある住民投票でした。

もしかしたら、海沿への移転を推進する市民グループからは4,468名の署名があったため、住民投票することで、フェリー駐車場跡地への庁舎移転の賛成多数は固いと思っていたのかもしれません。現実には賛成票は、4,080と署名数の4,468よりも少ない結果に終わっています。

この垂水市の庁舎移転問題については、構想段階で1案に絞り込まず、3案用意したうえで、情報公開とパブコメをしながらの基本計画で移転先を1案に絞り込むという丁寧な進め方をした尾脇市政の進め方はおおむね問題なく、最初の直接請求による住民投票条例を必要ないと判断したことも理解は出来ます。さらにフェリー駐車場跡地への庁舎移転に反対グループ、推進グループがそれぞれが運動してきたことを受けて、市民に真意を問うべきと判断したと思われますが、遺恨を残さないために行った丁寧な政治判断で評価できます。

住民投票で、反対が過半数を上回ったのは何故でしょうか?近年の東日本大震災、熊本地震、球磨川の豪雨災害など災害、異常気象が頻発している中で、市民の防災意識が高まってきて海沿いへの計画についての不安に感じた市民が多かったのだと思われます。検討を開始した2012年からこの8年でも、災害リスクに対する市民の意識はより安全側に考えるようになってきているのだとと思います。検討を重ねてきた時間と費用は無駄になってしまったのは残念で、また築62年の現庁舎の安全性も心配ですが、防災の拠点としての市民の支持が得られる場所での新庁舎の計画を早急に進めて頂きたいと思います。

静岡市の住民投票の経緯

静岡市は、静岡県中部に位置しており、市庁舎および静岡県庁舎は、静岡市の葵区にあり政令指定都市です。2003年に旧静岡市と旧清水市は合併しています。人口は2020年8月現在約69万5千人で人口減少が始まっている地方都市です。今回の住民投票問題は、この合併以来の旧清水市の市民感情にも関係しているように思えます。

図2.葵区・駿河区が旧静岡市、清水区が旧清水市

表2.静岡市清水庁舎移転問題の経緯

1983年清水市庁舎(現在の静岡市清水庁舎)完成(2020年、現在築37年)
2003年4月清水市と静岡市合併
2011年3月東日本大震災
2011年4月田辺現市長初当選(得票率45.1%、清水区得票率46.5%)
2011年庁内における清水庁舎BCP化の検討
2012年、14年庁内における清水庁舎建築物性能検討業務、移転先の検討
2015年4月田辺現市長二期目の当選(得票率67.0%、清水区得票率68.7%)
2016年4月都市計画マスタープラン改定
2017年2月立地適正化計画策定
2017年2月静岡市広報紙「静岡気分」特集号で清水庁舎を清水駅と直結する場所(現東口公園)に移転する案を公表、合わせて独立行政法人桜が丘病院を、現清水庁舎に移転する計画を発表
2017年9月静岡市新清水庁舎建設検討委員会第一回会合
2017年12月新清水庁舎建設検討委員会第四回会合、移転建替え、現地建替え、現状庁舎の大規模改修でのコスト比較検討
2018年3月新清水庁舎建設基本構想(清水駅東口への移転、PFI方式)
パブコメ(意見提出者421名、意見数828件)
2019年3月新清水庁舎建設基本計画策定
パブコメ(意見提出者599名、意見数1705件)
2019年4月田辺現市長三期目の当選(得票率49.6%、清水区得票率45.4%)
2019年9月創生静岡(民主党系からの分離会派)から、市議提案の住民投票条例が提出されるが、反対多数で否決。
補正予算で新清水庁舎事業費約94億円が承認
2020年5月新型コロナウイルスの影響で、新清水庁舎の新築(事業費約94億円)、清水港周辺の海洋文化施設の整備(同約234億円)、駿府城公園周辺の歴史文化施設の整備(同約62億円)総額約390億円の3事業の公募・事務手続き停止を発表。
2020年6月6月23日に、現清水庁舎を清水駅東口公園に移転することに対する賛否を問う住民投票条例が、有効有権者署名総数:52,300人(葵区:14,092人、駿河区6,787人、清水区31,421人、なお必要な有権者1/50の署名数は11,787人でその4.4倍とかなり多い)とともに提出
2020年8月3日市長住民投票条例に反対の意見をつけて提出。「時間をかけて十分に検討して基本的方針策定の段階から、市民、専門家の意見を聞いて集約してきた。市民の意見が十二分に図られて集約されたことを踏まえて、議会制民主主義の手続きを得て市議会で意思決定しています。投票率・得票率による成立要件がないまま議会制民主主義の意思決定を覆すことも問題だと考えます。」
2020年8月清水庁舎を清水駅東口公園に移転することへの賛否に対する住民投票条例案を審議する市議会臨時会で8月7日、賛成8、反対36で否決した。創生静岡(4人、民主党系から分派)、共産党(3人)、緑の党(1人)の3会派が賛成し、自民党(23人、議長を除く)、志政会(7人、民主党系)、公明党(6人)の3会派

図3. 2017年2月の静岡市広報誌「静岡気分」特集号(2017年9月から始まる検討委員会の立ち上げ前に、決定したかのような広報を開始してしまっているのは市民の反感を買うまずい進め方です)1.新清水庁舎、2.桜が丘病院の移転4.海洋文化施設、防潮堤(濃い紫の点線)なども記載されています)

新清水庁舎の立地、災害危険リスクと街のにぎわいについて

静岡市の清水庁舎は、1983年に完成しています。2020年現在、築37年、私の住んでいるマンションと同じ築年数ですが、建て替え不要で、耐震化と大規模修繕工事で良いのではないかと最初に感じました。静岡市は清水庁舎建設検討員会を2017年9月から有識者、市民を加えて検討をしていますが、第二回目の資料2のなぜ移転が必要か説明があります。

  1. 市民を守る防災拠点・行政庁舎としての業務の継続(BCP)が困難であると判断(東海地震のレベル2で、津波浸水深最大2.2mで、地下2階の機械室・電気室が水没する)
  2. 防災拠点として耐震性能が不十分(東海地震に対する耐震性能がレベルII)

東日本大震災を受けて2012年から庁内での行政レベルの検討を開始して、大規模耐震工事か建替えが必要という結論になっています。

しかし、検討した結果の移転先が清水駅東口公園は、現在の清水庁舎と同様の津波浸水深が2-3mのエリアになってしまったのが問題です。津波発生から10分から15分で到達する場所です。防災拠点であるはずの新庁舎も現庁舎とほぼ同じ浸水リスクのある場所に移転という計画に疑問を感じました。

図4.清水駅周辺の浸水エリアマップ上の現清水庁舎と移転先の清水口東口公園

なお検討委員会の第四回の資料では、現庁舎以外にほかの候補地が検討されていますが、島崎町、辻一丁目なども検討されています。辻一丁目は東海道線の西側ですが、津波浸水エリアかどうかわかりませんが、資料だと防災拠点の視点が〇になっていて浸水リスクは現庁舎や清水駅東口公園案より低いようです。都市ビジョンとの整合性や、駐車場が狭くなることから総合点は清水駅東口公園案より低いという結果になっています。

都市ビジョン、まちづくりについては、2016年の都市計画マスタープランや2017年の立地適正化計画で検討されております。静岡市の立地適正化計画のPRムービーがわかりやすいです。2040年には人口が約10万人減少して、60万人を切ると予想しており、コンパクトなまちづくりで集約をしていきたいというまとめになっています。

コンパクトのまちづくりについては、人口減少には歯止めがかけられず、対策を行っても避けられない現実で、多くの地方都市が検討しており、コンパクト化に誘導していかないことは理解できます。人口減少に向けて行政が動かないといけないのです。静岡市では利便性の高い市街地ゾーンと、ゆとりある市街地、自然調和ゾーンにわけて市街地に施設は集約していく方針になっています。

新庁舎は公共交通の拠点で、もっとも利便性の高い市街地ゾーンである清水駅東口に持っていきたいようです。防災拠点としての立地としては良くないので、まちのにぎわい作りを優先したいということなのでしょうか。

しかし検討委員会の議論でも、基本構想、基本計画のパブコメでも津波浸水エリアにおける防災拠点の移設についての懸念する意見が出されています。基本構想についてのパブコメでは、828意見のうち134意見(P9)基本計画についてのパブコメでは、1705意見のうち131意見(P10)が、災害リスクの高い場所への移転の懸念でした。静岡市は、1階をピロティにする、機械室を地下に設けないなどハード面の検討をしてむしろ津波浸水時の避難所として役割を果たすと考えています。

広報市の「静岡気分2019年7月号」から抜粋、清水駅東口の新市庁舎のイメージ

新清水庁舎建設基本計画より抜粋

新清水庁舎建設基本計画より抜粋

図5.新清水庁舎のイメージ図と防災拠点としての機能

静岡市の清水庁舎移転問題で何故、直接請求に至ったか

静岡市の進め方で、一番まずかったのは、2017年2月の広報市の静岡気分で、静岡市新清水庁舎建設検討委員会を立ち上げる前に、図3に示したような「清水区の都心はこうなる」という形で、新清水庁舎の移転、津波浸水エリアでない内陸側にある桜が丘病院を、津波浸水エリアの現在の清水庁舎に移転することが決まったかのような広報をしたことです。この時点で既に移転先が決まっているであれば検討委員会は不要なはずです。広報誌「静岡気分」での発表通りに検討委員会の結論を誘導したと言われてもしかたないでしょう。

2012年以降の庁舎の移設に関連して、全国で9件も住民投票が実施されています。市民にとって重要な問題だからです。どんなに最適な場所だとしても現在地から移動することで不利益を被る市民がいるので必ず反対意見が出ます。ですので、行政での検討では複数案をつくっておき、有識者や市民を入れた検討委員会、さらにはパブコメも行って市民の意見も反映させて1か所に絞り込み、最後に議会の意思決定で承認を得たという形にする必要があります。垂水市は基本計画(案)の公表後にパブコメをして移設場所を絞り込むという進め方で対照的でした。

二番目にまずかった点は、都市マスと立地適正化計画で決めた方針、利便性の高い市街地ゾーンと、ゆとりある市街地、自然調和ゾーンに分けて、市街地ゾーンに中心施設を集約したいというコンセプトにとらわれすぎていることです。にぎわいを創出したいのはよくわかりますが、清水駅周辺の都心部を海洋文化都市としてコンパクト化して、清水庁舎、桜が丘病院を津波浸水エリアに移設すると、東海地震の津波が来たら建物は耐えられるとしても被害を受けることは間違いなく、防災拠点の機能が十分に果たせなくなります。

近年の異常気象、豪雨、地震による災害が多発しており、2011年以後、年々、国民の災害リスク・防災意識は高まっています。全国で想定外が起こり続けているからです。免震構造、ピロティ、機械室を地下に設けないなどハード面の対策については、立地で選択肢がない場合に取る最後の検討手段ではないでしょうか。

基本構想、基本計画のパブコメの意見にも災害リスクのある場所への移転の懸念が、134件、131件と最大規模の意見となっております。市の回答も立地適正化計画に基づいてと、市の検討をごり押ししている感があります。市民の意見を十二分に集約して市議会で意思決定をしたと言い切ってしまう田辺市長にも問題があり、静岡市議会にも問題があります。田辺市長は反対する市民に意固地になってしまっている面があるのではないでしょうか。庁舎移設問題こそパブコメがたくさん出て紛糾している問題であり、静岡市で決定できる問題なのだから、例えばにぎわいを重視する清水駅東口移設案か、防災を意識する別の場所への移設案で比較検討して、市民に住民投票で問うべき問題です。

 

表3.新清水庁舎建設基本構想に対するパブコメ意見抜粋

表4.新清水庁舎建設基本計画に対するパブコメ意見抜粋

第三に感じたまずかった点としては、旧清水市民の感情がマイナスになるような庁舎移転計画の進め方をしていることです。第二回目の検討委員会の資料によると、現在の清水庁舎にある、こども未来局、経済局、教育局は、新庁舎には移設しないで静岡庁舎に集約が望ましいとしています。清水区民からすると清水庁舎は出先機関に格下げになるようで、良い気持ちはしないでしょう。

合併の時以来、旧清水市民は不利益を被っている意識を持っているのかもしれません。田辺市長の3選目の市長選挙の結果にもよく表れています。表2に示しましたが、2019年4月の市長選では、全体3区での得票率49.6%に対して、清水区得票率は45.4%と4.2ポイント低いです。清水庁舎移転問題も関係しているでしょう。なお2011年と2015年の選挙では、清水区の田辺市長の得票率は平均より上回っていました。

住民投票条例案についての市議会での議論について

2020年の8月3日の初日に質問、総務委員会に付託、8月7日の臨時市議会で決議という流れになっています。映像が公開されています。まず驚いたのは、条例に反対(移転計画に賛成)の市議会派である自民、公明、志政会(民主系)は質問がなく、8月7日は反対討論も行わないという手抜き市議会だったということでした。直接請求に必要な53,200の署名者である静岡市の有権者に失礼ではないでしょうか。市議会議員が仕事をしていないのであれば市議会は不要ということになります。大部分の議員は意識が低いと言わざるを得ません。

質問は、条例に賛成(移設計画決定には住民投票が必要と考える)市議の質問は、「意見が集約されていないから直接請求された」、対して、市側の意見は、アンケート、パブコメ、検討委員会、タウンミーティングなどで集約されたから市議会で意思決定したと繰り返してかみ合わない内容になっています。条例に賛成(移設計画決定には住民投票が必要と考える)市議も、アンケート、パブコメをもっと分析、深堀して、何件こういう意見があるがどう考えるか、という指摘をすべきだと感じました。

2点ほど条例を求めた市民グループ側に脇が甘かった点も記述します。市側が指摘した問題は以下2点。

  • 条例案の意見には、津波浸水エリアである清水駅東口公園への移転を懸念しているのに、7月13日に市長へ面談を申し込んだ際の要望書には、同じく津波浸水エリアにある現清水庁舎を耐震化することでの対応を要望としており、津波浸水エリアの危険性に対しての考え方が矛盾しているため、条例案に署名した52,300名の有権者と意見が異なる可能性がある。
  • 住民投票条例案の第17条に、この条例に定めるもののほか、住民投票に関し必要な事項は、本条例請求者を加えて協議し、規則で定める。

1点目は、住民運動の主張に矛盾があると行政側は必ず指摘して、住民投票つぶしの理由にするので気を付けないといけません。とくに今回は1月から署名集めを始めて、選挙や新型コロナウイルスで途中は署名集めを停止したりして間延びしたので、その間に議論が深まり主張が変わったのかもしれませんが、要望書に津波浸水リスクに対する考え方が変わったかのように耐震化要望したのはやめるべきでした。

2点目の規則、これは市がむちゃくちゃな規則をつけないようにけん制する目的だったかもしれませんが、やはり市側が否定する理由をつくってしまう条項でした。成功した住民投票条例を見ても、このような記述はありません。住民投票は市が実施するもので、住民投票条例に基づいて規則をつくるのは市になります。

それから田辺市長が指摘した「投票率や得票率による成立要件がない住民投票の結果で議会で決定したことを覆す可能性があるのは問題」という意見ですが、これは誤解しているというか、実施したくないがためのいちゃもんでしかありません。そもそも地方自治法の住民投票には諮問型で拘束力はないと解釈されています。投票率が低ければ低いなりに、それなりのものとして市長が結果を判断をすれば良いのです。投票の結果を持って市が再検討して、もう一度議会にはかれば良いのです。なお投票率に制約をつけて開票しないのは、絶対にしてはいけない禁じ手です。住民投票を実施したくがないために言い訳をつくっているようにしか聞こえず、田辺市長は、反対多数で否決は見えていたわけですから、かっこが悪いので言わない方が良かったと思います。

表3.近年の個別型の住民投票の成立要件(詳しくはこちら

日時住民投票条例成立要件・尊重要件
2020年8月鹿児島県垂水市 市庁舎移転の是非なし
2019年12月御前崎市 産業廃棄物処理施設の是非なし
2019年4月浜松市 区の再編投票率1/2成立要件(別の市議が条例改変を提案)
2019年
2月
沖縄県 辺野古の埋め立ての賛否得票率1/4尊重要件
2018年
12月
奈良県宇陀市 宿泊事業者の誘致なし
2017年
10月
茨木県神栖市 防災アリーナ建設是非なし
2016年
10月
熊本県和水町 菊水区域小・中学校校舎建設事業、移設または新設なし(1回目は2013年は成立要件つけて不成立、低投票率になったため2016年は成立要件を外した)

ここ数年の実施された住民投票条例で、常設型住民投票条例を持っていない市で実施された個別型の条例は投票率成立要件をつけた例はほとんどありません。お隣の浜松市の区の再編の市議提案の住民投票条例には、別の市議からの指摘で投票率成立要件がつけられましたが、もともとの条例にはついておらずある意味、嫌がらせのようなものでした。

田辺市長の発言は、常設型住民投票の多くに投票率による成立要件がついていることや、小平市の住民投票で小林市長が1/2投票率成立要件をつけた悪い例が悪影響を与えたものと思われます。投票率成立要件、得票率成立要件については、小平市長 小林正則氏の著作「住民投票」を読むに詳しくまとめていますので興味のある方は参照下さい。

得票率に条件を定めた例は沖縄県民投票条例があります。どんな投票率でも開票する前提で、得票率が有権者の1/4で結果は尊重されなければならないとするというものです。ドイツでの例では、尊重要件に10%などの敷居を設けてそれ以上得票すると結果が2年間拘束力もつなど住民投票がより尊重されています。

ところで、田辺市長は2020年5月にコロナウイルスの影響で海洋文化施設と新清水庁舎の建設はいったん建設を止める発表をし、6月には、9月までには方針を決めるという発表をしています。来年以降、市の税収の減少は確実です。新型コロナウイルスの影響で停止が長引くと予算が取りづらくなり、PFIによる入札してくれる業者もいなくなるという可能性も出てくるでしょう。

2040年には2020年現在から約10万人口が減って、60万人を切るという予測をしている静岡市、新清水庁舎の新築(事業費約94億円)、清水港周辺の海洋文化施設の整備(同約234億円)、駿府城公園周辺の歴史文化施設の整備(同約62億円)総額約390億円の3事業が最後の大きな箱もの事業になるのかもしれません。田辺市長は自分の任期中に目途をつけたいと考えていると思いますが、コロナウイルスの影響も出てきています。このまま推し進めるのか、考え直すのか今後も注目していきたいと思います。

まとめ

  • 静岡市、鹿児島県垂水市で市の庁舎を沿岸部に移転することの賛否を問う直接請求による住民投票条例案は、どちらも議会で否決されましたが、2020年8月垂水市では、市長提案で住民投票が実施されて反対対数で計画は白紙、静岡市では8.8%もの有権者の署名をあつめた直接請求も市議会で否決されてしまいました。
  • 静岡市が清水庁舎を清水駅東口広場に移設するという決定をしたのは、都市計画マスタープランや立地適正化計画でのまちづくりが背景にありますが、津波浸水エリアであり、利便性の高い市街地ゾーンに移設したいという方針にしばられすぎており、清水庁舎の防災の拠点として役割が軽視されていると言わざるを得ません。
  • 静岡市の清水庁舎移設の検討は、有識者や公募市民での検討委員会での検討の前に広報誌「静岡気分」で発表してしまい、後付けで有識者・公募市民による検討委員会で検討して結論を後追いしたかのような進め方をしました。この進め方は大問題で、市民の理解が得られないすすめ方です。
  • 静岡市議会での条例に関する議論は、賛成議員による賛成討論もしないで議決してしまい、静岡市議会議員の手抜きが目につきました。投票率、得票率の成立要件がないから判断できないという指摘をした田辺市長の発言は、住民投票をしたくないがための言い訳にしか聞こえず、かっこ悪いのでやめるべきでした。

以上(2020年8月26日)

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    2005年 の石渡正佳氏の著作の『スクラップエコノミー』(日経BP社)を読みました。石渡氏は、 千葉県庁の職員で、千葉県の産業廃棄物の不法投棄問題で実績をあげた人です。スクラップエコノミーでは、産廃問 …

    そろそろ小平市議は、未整備の都市計画道路に目を向けよう。小平3・3・3号線事業概要説明会より

    小平都市計画道路3・3・3号線新五日市街道線(小平市小川町2丁目区間)の事業概要及び測量説明会が6月26日(水)19:00から小平市中央公民館ホールで説明会がありました。 小平市の都市開発部と、水と緑 …

    市議会議員の適正な数は?東京都多摩地区の市町村の市議会議員選挙から考える

    当選に必要な市町村議員の票の数は? 一票の格差は、選挙区ごとの国会議員定数で話題になる問題です。あるエリアの代表として国会という同じ土俵に上がる国会議員を送り込む国政選挙で、鳥取県など人口が少ない地域 …

    小平市長 小林正則氏の著作「住民投票」を読む

    ⼩林正則⽒は、2005年の市⻑選挙で当選し て、2020年現在、⼩平市⻑の4期⽬を務め ている⽅です。この⼩林⽒が、「住⺠投票 ドキュメント3・2・8号線と市⻑の⼀⾔」という本を⾃費出版されました。⽀ …

    自己紹介

    小平市在住の50代男性のkamihooです。40歳から本格的にフルマラソンの大会に参加し始めて、2017年11月に48歳で大田原マラソンでサブスリーを達成しました。自己ベストは2020年1月の勝田全国マラソンの2時間54分37秒です。「ジョグのねっとわーく」でランニング日記をkamihooのアカウントで公開しています。https://jogno.net/

    Twitterアカウント@kamihoo2011

    毎週土曜日朝7:00から8:00まで小平中央公園噴水前集合で初心者やシニアと準備運動とジョギングしています。簡単なアドバイスもしています。よろしければ一緒に走りましょう。

    小平市では、「わたしたちのまちのつくり方」(http://watashimachi.main.jp/)という団体で、都市計画・まちづくりに関するイベント、地方選挙の公開アンケートなどを行っています。自分でやってきたことを整理する意味でブログをはじめました。

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    kamihoo2011@runkodaira.com

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