政治・社会

フロー経済からストック経済へ

投稿日:2019年11月18日 更新日:

2005年 の石渡正佳氏の著作の『スクラップエコノミー』(日経BP社)を読みました。石渡氏は、 千葉県庁の職員で、千葉県の産業廃棄物の不法投棄問題で実績をあげた人です。スクラップエコノミーでは、産廃問題も少し出てきますが、日本の戦後の経済発展のあり方であるフロー経済を見直し、ストック経済に転換すべきであるという提言をしています。

法的な視点、新技術に対する視点、経済の視点でさまざまな視点で日本への提言しており、2019年現在も十分に通用する良書です。市井の学者とはこういう人のことを言うのでしょう。久しぶりに本を2回読みました。今回は、以下の流れでブログをまとめました。

スクラップエコノミーのサマリー

スクラップエコノミーは、戦後日本の経済の在り方をさしており、他の先進国と比べて耐用年数の短い製品をつくって何度も生産して破壊することを繰り返してGDPを増やしているが、実は ゴミをふやしているだけで本当のGDPはもっと低いとというのがこの本のエッセンスです。 住宅を例にしていますが、住宅平均使用年数は、日本26年、アメリカ44年、イギリス75年だそうです。歴史的、文化的価値のあるものを壊して小さな複数の住宅地にした場合、日本の固定資産が減耗するので、以下のように表現しています。

NDP国内純生産 = GDP国内総生産 - 固定資産減耗

耐用年数の短い製品を短いサイクルでつくる社会をフロー経済と呼び、逆に寿命が長い価値のある製品をつくり長く使う社会をストック経済と読んでいます。ビジネス視点だと価値のある製品を作り1回の取引の売上額を増やして取引の回数を削減する経済に移行していくことになります。労働人口減少が如実になってきた現在には、ストック型が合っています。

フロー型経済の現在のように新築住宅を購入した直後に価値が7割に下がるような価値の下落はなくなり中古市場が確立されます。広い家、耐震性の高い家に住むことが出来るようになります。住宅の価値があがり、都市の価値があがるので人口流出もふせげるようになると説明しています。そして不良債権の本質は、歴史ある街並みを壊して価値の低い建物をつくっていることにあるとしています。

人間一人は1日1kg以上のゴミを排出しており、1年で400㎏、80年生きるとして32トンのゴミを出す。住宅一戸は30トンから50トンなので住宅をたてかえるということは、 建て替えるたびに、一生分のゴミをだすことと等しい。寿命を3倍にすれば、人間が住宅ごみも1/3になると説明しています。ゴミの専門家らしい分析で問題提議しています。

ストック型の経済への移行のために、住宅政策に関して、相続税と固定資産税の見直しが必須であるとしています。相続税を払うために土地の切り売りが始まるため相続のたびに土地が小さくなってしまうことを問題視しています。アメリカのように所有課税に1本化すべきだとしており、歴史的価値のある住宅や庭園などについては、保全を条件に相続税を免除する制度や、公的団体に寄付した後も居住を続けられる制度にすべきだとしています。

また、土地利用について所有と利用を分離すべきだとしています。都市再開発、道路整備で用地買収に時間がかかってしまい、住民と合意が得られない事業は、いっそ凍結すべきだという主張もしつつ、必要な事業については、所有権を取り上げずに、利用権のみ買いあげて地代を払うような仕組みで公共工事を進めるべきとしています。

フロー型経済以外では、道州制の導入について触れています。最近ではあまり話題になりませんが、2000年代は、首都移転や道州制などが活発に議論されていました。2005年の著作なのでそのような時代で、著者の視点で道州制について書いています。2000年前半の国債・地方債の合計は、約700億円程度だったのですが膨らみ続けて破たんに向かっている国債依存体質について、提言しています。道州制を導入して、国鉄民営化の時のように、国債も併せて道州に割り振ってしまうという提案です。

道州制と関連して、国から地方自治体の補助金について大きな問題とみなしています。情報を持っていない国が政策を決めて、補助金を割り振ることが問題としています。情報は地方にあるので、地方で決めるべきだというご意見です。但し県単位では小さすぎるので、道州制が良いということのようです。また補助金については、補助金を受ける自治体側が、税を徴収する苦労無しに得られてしまうことに問題があるとしています。苦労無しで得られる収入は親の財布にたかる子のようなもので、国策に併せて予算をつかってしまっていることを問題視しています。

他にも、小泉政権(2001年~2005年)の政策の評価や素晴らしい提言がたくさんあるのですが、私の琴線に触れた部分は、主にストック経済へに移行と、道州制の部分についてでした。以下、自分の視点を入れて考察してみたいと思います。

ストック経済への転換は相続性の廃止が鍵

以下、小平市に住んでいる住民の視点で考察をしてみました。

ストック経済で住宅販売の仕組みを考えています。東京多摩地区、都心まで45分程度の小平市の近郊では、相続税で手放さざるを得ない農地及び、国の施設や大企業の宿舎跡地が、建売住宅、マンションに置き換わっています。建売された一戸建てだと30-40坪程度で、4千万円前後で販売されています。土地代が3千万円くらいで、家代が1千万円くらいのイメージです。

住宅メーカー側は、住友林業や、旭化成(へーベルハウス)、三井ホームなど坪単価が80万円程度の会社から、レオハウス、タマホームなど25万円から40万円程度の安価な住宅メーカーまで様々あります。すでに消費者に対して選択肢は提示されています。どんな住宅にするかの選択肢は提示されていますが、住宅にお金をかけられる人は限定されていているように思えます。ストック型経済では、単価は高く耐震性が高く、長寿命の家が選ばれるような社会ですので政策が優遇されるようにならないといけません。

先日、知り合いの農家が住友林業さんで家を新築したのですが、60年持つ設計だそうです。ご子息も既に自宅で農業を一緒にされており、二世代は住むつもりで 資産価値の高い住宅として設計されたようです。このような例が普通になるような社会がストック経済の目指すところなのかもしれません。現実には、地主である農家では現実味はあっても、普通のサラリーマンでは難しい選択かもしれません。

著者が言うようにストック型の経済に移行するためには、相続税を廃止するというのは現実味がある解となり得ます。 国税・地方税の税収内訳(H29年度決算 総務省資料)によると2017年の国税収入の62.3兆円のうち、相続税の占める割合は、2兆2千9百万円であり、3.67%の比率です。そんなに大きな比率の税収ではありません。

図1 国税・地方税の税収内訳(H29年度決算)総務省資料から相続税の割合

とくに都市農業を営んでいる農家にとっては、相続税を廃止する意味は大きいです。 先の農家も一昨年に相続があったのですが、一部の農地を売却して減少してしまいました。生産緑地として、納税猶予をうけているのもの、住宅部分や所有している不動産であるマンションに対しては、相続税がかかるため農地を売るしかないため、相続があるたびに農地が減少してしまうというのが東京の都市農業の現実です。販売された農地は、小さな住宅に変わって東京の一極集中を加速させて、人口減少が始まっているわけですから、どこかに空き家が1件増えているのでしょう。

相続税率は、2019年現在、最高税率で6億円以上の資産があると55%となっています。相続で生産緑地を継続すれば農地には相続税は猶予されますが、後継ぎが農家を継続しない場合は、納税猶予は受けられずほとんどの土地を売却しないと行けなくなります。実際に、後継者がいないまま突然病気でなくなった農家のほとんどの農地が住宅地に変ってしまったことが、ごく最近もありました。小平市の農地は、路線価で20万円/m2程度ですので、50アールも農地があれば10億円以上の価値があります。現実に農地で、そのような相続税を払うような収益を上げることは難しいので、世代交代のたびに農地が減少してしまっており、大きな緑の損失になっています。

ところで話はそれますが税収に占める消費税の割合が28%もあります。消費税に変わる財源を見つけるのは容易ではありません。 10%にあがってますます依存度が高まっています。消費税0にという主張されている人がいますが、簡単な話ではないことがわかります。

相続税をやめることで 都市農業が再生される可能性があります。農家が元気になれば、地産地消も進み、住みつづけたい街、世代を超えて、子世代、孫世代も愛着を持って選ばれる街の要素となりえます。地主に相続税がないのは不公平と考える人もいるかもしれませんが、相続税をなくす代わりに、災害時の井戸の提供や、小学校むけに食育向け農地として一部の農地を貸し出しや、家庭菜園向けなどの農地提供など、周辺住民にもメリットがあるような義務を負ってもらうことで還元して頂くことでいかがでしょうか?街の価値があがり、定住者が増えることが自治体の価値をあげることにつながります。新住民も多世代にわたっての定住が前提になって家を建てるようになれば、親子でローンを組んで、60年以上使用する前提で家を建てる人が増えるかもしれません。定住が見込まれれば地方自治体も市民税、固定資産税が減らないことが何よりも安定運営につながり安心です。

といっても現実には核家族化が当たり前になっているため資産価値の高い家を建てるというのは難しいかもしれません。著者が言う隣地の土地取得の減税処置など、なるべく土地が細切れにならない仕組みや、住宅の中古市場でも不動産価値が落ちない減価償却の仕組みの見直しや、賃貸においても控除のシステムなど政策を変えないと難しいかもしれません。フロー型経済で戦後70年以上生活しているのでストック型への転換は容易ではないかもしれません。しかし、人口が減少しているこの時期に政策を変えるチャンスです。

私たち国民も豊かさ価値についての基準を変えるべきときかもしれません。長く住める住宅を購入して地域に愛着を持つ、子世代、孫世代も地域に愛着を持ち、彼らに引き渡せるような住居。履きつぶす安い革靴ではなく、修理して長く履ける革靴、体型が変わらなければ何年も使えるビジネススーツ、ゴミは極力出さない、ものを大事に使う、良いものは中古市場でも高く流通する、私がイメージしたのはそんなイメージのストック経済です。

道州制 を導入して国債残高も割り振る

著者は情報を持っている地方が政策を決めて財源を確保するべきだと、著作の後半で説明しています。税の徴収をしないで手に入る補助金をあてにして事業の仕組みは事業効果が小さい投資になって、国の借金を膨らませている。県単位では、小さすぎるため道州制を導入して、国税庁並みの税の徴収能力を道州に持たせて、地方交付税交付金や補助金は道州に移管すべきと主張されています。

さらに2005年の著作発表時に700億円だった国債残高の借金も道州に割り振ってしまうことで、健全化を目指すべきだと主張されています。国・地方債は、現在1,100億円に膨れ上がっています。国鉄の分割民営化の際の借金の割り振りモデルをイメージしているようです。

図2.財務省 債務管理リポート2018 -国の債務管理と公的債務の現状- 補 財政状況と国債残高 より

最近では、国の借金が増えることが常態化してしまい、異常であることがニュースや報道番組で指摘されることもなくなってしまいました。なお、地方債はわずかですが減少傾向にあります。小平市も少しずつ地方債を減らしています。国債が増加しても問題視されないのは、国民の持っている貯金が1500兆円程度あるため、国の借金約1100兆円より少ない事などが背景にあり、現在も国債の引き受け手があることと、円の為替が下がらず、円の価値が相対的に高いことや、借金が増えつづけてもインフレが起こらないことなどが、積みあがった国債が大きな問題とされない理由です。しかしいつ何がきっかけで崩壊するとも限らない。他人事ではありません。

現実問題として、全額を返済して借金ゼロを目指すことは遠い話だとして、少なくても借金が少しずつ削減されることで、今後も円の信用を保ち、国債の買い手を安心させるためには必要だと私は思いますが、いかがでしょうか?

図3.平成30年度一般会計歳出・歳入構成(財務省公表資料)に、地方自治体への支出を記載

著者は、地方交付税交付金や、公共事業として地方自治体に振り分けられている財源も道州制にして移管すべきということですが、2016年の国家予算を見ると、社会保障費が大きいですが、地方交付税は15.9%と公共事業6.1%と割合は減っていますが、支出としては2番目と3番目。

補助金による公共工事について、東京都小平市にいると、補助金がありきで進められている事業が目につきます。都市計画道路と、市街地再開発事業について見てみます。

小平市で、最近進められている事業である小平3・4・10号線の整備について見てみますと、約530mで鉄道をアンダーパスする二車線16mの幅員の道路ですが、費用は、約60億円~65億円で、財源は、国が約50%、東京都が約25%、小平市が25%。補助金があるから進められる事業の典型のようなものです。

図4.小平都市計画道路3・4・10号線

また小平市西武拝島線の小川駅西口再開発についての財源を見ると、総工費約183億円のうち、約100億円が補助金(国負担:約34億円、都負担:13.5億円、市負担:52.5億円)となっています。駅前ロータリー、新しくできる公園の整備、新しい建物の公共床の購入費用などもあるので、行政として整備すべき費用も含まれており、すべてが補助金としてみなすべきではないですが、補助金ありきで計画が進んでいることは間違いありません。周辺には再開発を望む声があるのですが、デベロッパーも参画して高層ビルを建てる再開発手法が唯一の選択肢になってしまっており、やり方は他にはないのかと感じています。

図5.小川駅西口地区市街地再開発事業 周辺説明会(2019年8月)配布資料の抜粋

それぞれ都市計画法、都市再開発法などに基づいて進めている事業ですが、要件を満たして、市→都と事業認可に必要な手続きをすると国、都から補助金が降りる仕組みになっております。都も国も年度内での補助金総額は管理されていると思われますがが、その範囲では補助金は使われる仕組みになっており、地方も依存体質は抜けないでしょう。

もしこれが著者がいうように、道州制を導入して、国債の借金の道州の割り当ての返済分も踏まえて自分で徴収した税金で都市計画道路も市街地再開発もやり切るとしたら、かなり事業を絞り込むでしょう。

但し、道州制で国債残高(借金)を割り振るときには、東京都を含む関東エリアは最も負担が大きくなるわけで、きっと反発は強く簡単には行かないことは想像がつきます。

間接民主主義国家で大胆な変革、簡単ではないですが、国債残高を膨張させている国債依存の国家運営を解消する方法、どんな解があるんでしょうか。

まとめ

2019年は集中豪雨災害が関東と東北に発生して河川が氾濫、廃棄される家具、倒壊した住宅そのもののゴミの量、その大きさが痛感できる年でした。フロー型経済を見直していく良いきっかけの年だと言えるでしょう。

  • ゴミを大量に出すフロー型経済から長寿命の価値ある製品を製造販売するストック型経済への移行していく。その方法として著者が提案しているのは、相続税を廃止することです。
  • 国債依存度が高まり、積み上がった国債、地方債残高は約1100億円。道州制にして税の徴収も道州に移管して、地方交付税交付金、補助金を移管、国債残高も道州に割り振り、本当に必要な政策を道州が決めて、財源を割り振り国債残高も削減していく。

というのが石渡正佳氏の著作の『スクラップエコノミー』(日経BP社) に記載されていた提案です。私なりに小平市でおきている事から、相続税や補助金について考えてまとめました。

以上(2019年11月18日)

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