※2020年6月に無事に直結方式への工事が終了しました。ご興味ある方は、工事完了編もご覧ください。
※閲覧数が多く質問してくれる方も多いので、マンション管理組合向けのサービスサイト「マンション管理組合目線」に、中小マンション直結給水方式への切替というブログで、貯水槽方式、直結増圧方式、直結直圧方式の工事費、維持費のコストシュミレーションを行っています。どうぞ参考にしてください。
2020年7月アクセスが非常に多いので、目次にリンクをつけました。タイトルも細分化しました。
2019年11月に私の住んでいるマンションの総会決議が行われて、給水方式について、貯水槽方式から直結直圧方式への変更が全会一致で決議されました。マンションは、21世帯で4階建で、築37年の古いマンションです。
現在は、地下1階の機械室から給水ポンプで4階の各部屋まで給水しております。給水方式を変更する理由は、ポンプユニットが20年以上稼働しており交換の時期が来ていること、貯水槽も37年間使用しており老朽化していることから設備の切り替えの時期に来ていることなどが理由でした。検討をすすめた結果、マンションの設備更新費、設備維持費の削減(貯水槽の清掃費用、月々発生している遠隔監視費用、ポンプの電力費用)することがわかり、直結方式に変更することで総会の議案を通しました。老朽化がすすむと必要となる修繕費は増えていくので、少しでも節約してマンションに必要となる修繕積立金に回してしていく予定です。
給水方式を更新する際の選択肢として以下3つの方式があります。
- 貯水槽方式(地下貯水槽、地上貯水槽、屋上貯水槽方式など)
- 直結増圧方式( 東京都水道局は 増圧直結直圧方式と呼ぶ)
- 直結直圧方式(東京都水道局は(特例)直結給水方式と呼ぶ)
- 今、給水工事を実施する理由 → 貯水槽のパッキンから漏水が始まっている、ポンプが耐用年数を超えていつ壊れてもおかしく無い、給水配管からの漏水が発生して設備全体の見直しが必要と考えた、など
- 直結方式を選択した理由 → 本文中の表のようなもので、現状の貯水槽式、増圧直結方式、(特例)直結方式それぞれの設備更新費、維持費、電気代について、実績値、業者見積もり、長期修繕計画をベースに比較して、総合評価をして直結が良いというまとめをする。
- 業者選定理由 → 最低限2社以上の見積もりをとり価格、実績、提案内容を比較して、工事会社を選定したとまとめる。
- 工事までのスケジュールと、工事内容概要と、工事中の断水の回数と時間についての説明する。
古いマンションでは、貯水槽方式が多いです。後者2つの直結直圧、直結増圧方式は、どちらも水道局の水道本管にマンションの給水配管に接続させる方式です。全国の水道で適用できるわけではないですが、東京都や横浜市など都市部の水道局では、給水配管の本管の管径が太く、十分な水量を確保していることから、水道局は積極的に直結方式への切り替えを促しています。但し、水道局が停電・故障、事故、水道施設の工事、 雨量が少ない渇水による制限給水などの場合に一時的に断水になったり、水量・水圧が制限される場合可能性があります。
どのマンション管理組合の管理規約も、 国交省が公開している標準管理規約がベースになっていますが、給水方式の変更は 敷地および共有部分の変更などにあたる特別決議事項に相当するため組合員総数の3/4以上の賛同(標準管理規約47条3項)を得る必要があります。 私のマンションで言うと21名の組合員のうち、16名の賛同が必要で、ハードルは低くはありませんでした。2年半に及ぶ準備を行いようやく臨時総会で18名が議決権行使または出席して、18名全員から賛同を得ることが出来ました。なお、残り3名は無回答であり反対されたわけではありません。
以下の手順で直結直圧方式への変更について説明したいと思います。
目次
直結方式とは?貯水槽方式に対するメリット・デメリット
直結方式とは、何かを説明する前に集合住宅(マンション)における給水方式の大まかな分類についてご説明します。
10年以上前に建てられたマンションでは、貯水槽給水方式による給水が一般的でした。 貯水槽で 一度水道水を受けて、ポンプで各部屋に供給します。図1の例では、さらに屋上の貯水槽に水をあげて、重力で供給する方式ですが、直接ポンプで各部屋に供給する方法もあります。また、貯水槽は地下に設置されているマンションも多いです。私の住んでいるマンションは地下貯水槽からボンブで直接各部屋へ給水しています。
それ以外には、増圧直結給水方式と、特例直結給水方式がありますが、これらがいわゆる直結方式の給水となります。水道局からの給水を貯水槽で受けずに直接マンションの各部屋にポンプで給水する方式です。 増圧直結給水 は、水道局より送られてくる水圧を利用しつつ、ポンプで増圧して最上階まで水を送る方式です。高層マンションの場合は、途中に増圧ポンプをつなげる多段の増圧をおこなっている場合もあります。(特例)直圧給水方式は、 水道局より送られてくる水圧で最上階まで水を送る方式で、採用される際に増圧ポンプをおけるスペースを確保する必要があります。
給水ポンプは、通常10年に一度くらいで交換するのが普通です。給水配管は20年から30年くらいで更新が必要になりますが、漏水などの問題が起きずさらに長い間使われることもあるようです。貯水槽も屋外だと直射日光を受けるため20年くらいでパッキンから漏れなどがあるようです。地下に設置していても、30年くらいで漏れが発生する例があるようです。 給水方式を変更するタイミングは、貯水槽の水漏れや、ポンプの不具合の兆候、或いはユニットを1台だけ交換するなどの症状が出たときになるでしょう。
東京都水道局では2012年以降貯水槽方式から直結方式に変更する際には、水道本管からの取り出しを増径する必要があるのですが、増径工事について費用を東京都水道局が負担するという補助を行っています。また、 東京都管工事工業協同組合の直結切替工事施工事業者一覧(PDF)、 協同組合東京都水道請負工事連絡会の直結切替工事施工事業者一覧(PDF)、三多摩管工事協同組合の直結切替工事施工事業者一覧(PDF)などに問い合わせれば見積もり可能です。このことからも東京都水道局は直結方式への切り替えを推奨していることになります。理由は、 浄水場でつくった「安全でおいしい水」をそのまま蛇口まで届けることを強調しています。貯水槽では滞留させたくないと考えているようです。また東京都水道局ホームページでは記述はありませんが、給水設備全体での省エネも意識していると思われます。では、デメリットはないのでしょうか?
貯水槽方式、直結増圧方式、直結給水方式、のメリット・デメリット
貯水槽方式 | 増圧直結方式 | (特例)直結給水方式 | |
東京都見解 | 新築では本管より分岐が太くなるような大きなマンション以外は直結方式が採用 | 4階以上のマンションで採用 | 3階までのマンション、4階・5階も特例で許可がでる |
水の鮮度 | 貯水槽で滞留する残留塩素が抜ける。直結よりはフレッシュではない。 | 浄水場の水が直接供給されるため鮮度高い | 同左 |
設備更新費 | ・配管の交換 30年程度の一度 ・貯水槽の交換 30年程度に一度 ・ポンプの交換 10年に一度 | ・配管の交換 30年程度に一度 ・ポンプの交換 10年に一度 | ・配管の交換 30年程度の一度 |
機器維持費 | 貯水槽清掃/年1回 ポンプ点検/年1回以上 遠隔監視費用(異常のかけつけサービス含む) | ポンプ定期点検/年1回以上 遠隔監視費用 | なし |
電気代 | ポンプの動力 | ポンプの動力(貯水槽より少ない) | なし |
停電時 | × | △本管圧力でもあがる | 〇本管圧力であがる |
本管工事・事故 | 〇(貯水槽に貯水した分は影響を受けずに供給可) | × | × |
給水制限時 | 〇(貯水槽に貯水した分は使用できる) | △ 給水される水量分は、供給可 | × 供給される水量分のみ、上層階は給水できない可能性も |
直結方式のデメリットは、貯水槽にある貯水機能がないことです。貯水槽には、水道本管工事や事故で水の供給が止まっても、貯水槽にある水量分はマンションに供給できるというメリットがあります。また渇水時の給水制限になると、水道局が給水量をさげる可能性があるので、その時に、貯水槽があれば水道局からの供給量が激減しない限りはを一定に保つことが出来ます。さらにマンションが停電になっても、貯水槽の容量分の水を貯水槽まで汲みに行けば使用することが出来ます。但し、貯水槽は通常マンション全体の半日分の使用量で設計されており貯水量は半日分です。また、貯水槽には通常蛇口がありません。ドレンバルブを回せば水が出ますが、バルブを回すのは大変で、本当に給水制限時に水を取れるようにするには緊急用の蛇口をつけるなど貯水槽を改良する必要があるでしょう。また貯水槽が地下にある場合は、地下室の鍵管理や、降り方なども考えると果たして有効に使えるのか?という問題もあります。本当に貯水機能のメリットが活かせるのかは検討したほうが良いです。なお貯水槽方式を継続する場合は、貯水槽の交換の間にマンションの給水を止めることは出来ないので仮貯水槽を横において一時的に仮貯水槽で給水して、その間に貯水槽を壊して新しい貯水槽を設置する必要があり大変な工事になります。
貯水槽方式は給水制限時の貯水効果がありますが、直結式では、設備費、電気代、機器維持費などが抑えられて、新鮮な水が給水されるメリットがあるため、どちらを選択するかということになります。私のマンションでは 直結方式を選択しました。
直結方式では、増圧直結方式と、(特例)直結給水方式どちらを選択するか?ですが、東京都水道局の場合は、3階建て以下のマンションでは、無条件で直結給水が許可されます。4階建て以上の場合は選択が別れます。東京都の場合は、水道局に訪問して、マンションの引き込み管の最低水圧を確認する必要があります。本管圧力で、水が上層階まであがるかどうかを東京都指定給水装置工事事業者工事施行要領に従って水理計算というのを行い、計算上、上層階まで上がるようならば、特例で直結給水の許可がもらえるはずです。その時の条件として、水が上層階まで上がらない場合は、増圧ポンプを置くという条件を承諾する必要があります。そのため増圧ポンプをおくスペースは検討しておく必要があります。水理計算を行うには、管理会社や給水設備工事会社に依頼してやってもらう必要があります。私のマンションは特例直結給水方式を採用することにしました。
平常時は水の供給については上層階についても問題ないはずですが、給水制限の時はどうなるんだ?という不安の声が、上層階に住む人にはあるでしょう。増圧直結方式の場合は、給水制限の時も、マンションに供給される水量は減少しても、上層階まで増圧ポンプであげることが出来るはずです。直結方式の場合は、上層階まであがらなくなる可能性もあり得ます。しかし東京都水道局の直結工事をするにあたっての条件承諾書を見ると、増圧直結方式でも、直結給水方式でも同じように、以下のような文言があります。
『制限給水時、事故時、水道施設の工事等による、一時的な水圧低下に伴う上層階での断水や出水不良が発生した場合は、共用の直結給水栓(※)を使用します。』
東京都としては、直結増圧でも、(特例)直結でも、ダムの貯水量が減ってしまえば給水制限をかけるので、その場合は、マンション一階にある共用の給水栓をつかうようにと言っており、どちらの方式もリスクがあることのは変りないと言えるでしょう。
では、給水制限は過去どのくらいあったのでしょうか?東京都水道局が利根川水系、荒川水系、多摩川水系のダム貯水量について公開しています。平日は毎日更新されているようですが、グラフは2019年11月22日の私の住んでいる多摩川水系のダム貯水量です。
2019年11月22日現在はダムの貯水量は太い赤線で十分あることがわかります。過去の給水制限時の水位が示されています。多摩川水系では平成6年(1998年)の7/29から9/25まで(青色線)と、平成8年(2000年)の8/21から9/25(紫色線)まで(給水制限があったようです。ここ数年は異常気象が続いておりますが、雨量が多く災害が発生していますが、渇水がないとはいえません。しかし何十年に一度の渇水時のためだけに、貯水槽、水圧が足りているのに念のため増圧ポンプと考えるのは必ずしも得策とは言えません。機器費、維持費、電気代を削減して替わりにマンションの防災時の水や食料を購入した方が良いかもしれません。また防災用に手動の井戸を掘るほうが電源がなくても使える確実な水源が確保をするということで有効です。
直結方式を検討するうえで真っ先にやるべきこと
給水方式の更新を検討して、直結方式も選択肢として検討する上で、管理会社と相談するところから始まります。しかし管理会社も十分に経験があるとは限りません。また必ずしも乗り気であるとは限りません。管理会社からすると貯水槽方式であれば、貯水槽清掃、設備点検費、遠隔監視などの月額収入がありますが、直結方式にすることで、これらの収入がなくなります。工事は請け負いたいが、管理費の月額収入は減らしたくないという思いもあると思います。私たちのマンションでも、管理会社は当初あまり協力的ではありませんでした。
そんな状況で、まず第一に行うことは、水道局の各エリアのサービスステーションを訪問することです。直結方式に切り替えたいのですがと相談に行くと丁寧に説明してくれます。マンションの住所、戸数、貯水槽の大きさやおいている場所などを伝えると、いろいろアドバイスしてくれます。4階建てや5階建てで特例直結給水の可能性があるマンションでは、圧力が足りるか聞いてみると良いでしょう。水道局ではマンションの給水配管のルート図も管理しており、水理計算が出来るようになります。
ここで私たちのマンションで必要となった特別の事情を説明しておきます。15年前に給水配管更生工事というのを実施していました。配管表面をサンドブラスター(砂)で削って、エポキシ樹脂を吹き付ける更生工事をしたのですが、この場合は、使っている材質などについて詳細記録について水道局への提出を求められます。直接本管と接続するため逆止弁がつけられますが万一逆流した場合の異物が逆流することのないように、詳細な材質の記録を求められます。記録がない場合は、 東京都指定給水装置工事事業者工事施行要領 に基づいて44項目の物質について、配管に16時間浸出させた水を使った浸出試験というのを実施しなければいけないことがわかりました。この検査が約40万円もかかるテストで、検査できる業者さんも限定されております。水道局のサービスステーションに業者を紹介してもらい見積もり依頼をしました。 エポキシ樹脂を吹き付ける更生工事を行っているマンションでは留意する必要があります。
次に、方式を決めたら各社に見積もりを取ることですが、まずは仕様書を管理会社につくってもらうのが良いでしょう。もし仕様書を管理組合がつくってくれない場合は、お願いしたい工事内容を箇条書きで書くことで工事業者には伝わります。東京都指定給水装置工事事業者工事施行要領があるため、細かい指示をしなくても指定業者であれば施工要領に従って提案をしてくれます。例は図3の右側ににまとめました。さらに マンション竣工時の配管ルートが示された平面図のコピーに、水道本管から既設配管に直結させるルートを手書きして整理します。水道局から入手した配管ルート図を元に、配管口径は水理計算で算出します。水理計算結果からポンプの増圧ポンプの必要有無がわかります。増圧ポンプはどこにおくのか?配管材質などを仕様として工事業者がわかるようにします。増圧ポンプが必要か否かわからない場合は、増圧ポンプをおく前提で検討した後で工事業者を決めた後に、工事業者に水理計算をしてもらって不要となれば削除すれば良いでしょう。仕様書が出来たら、見積もりをとりますが、管理会社が工事をするならば管理会社の見積もりしてもらうのが良いでしょう。しかし管理会社1社だけでの見積もりでは、高い場合もありますので他の工事会社にも相談すべきです。
しかし工事業者を探すのが大変です。東京都では直結切替見積もりサービスというのをやっていますので、こちらに相談するとお住いのエリアに近い東京都指定給水装置工事事業者の一覧表が送られてきますので、工事会社を探すことが出来ます。この時、会社名でホームページを検索して直結給水工事の経験が豊富な業者を2社選ぶと、見積もりをしてくれます。依頼する業者には仕様書を渡すと間違いがなく良いでしょう。現地調査に来るので立ち合いが必要になりますが、いろいろと工事業者の視点でアドバイスしてくれますので立会することをお勧めします。また東京都を介さずとも、東京都指定給水装置工事事業者やインターネットで直結給水工事などで検索してアピールしている会社を見つけて見積もり依頼することも出来ます。複数社の見積もりをとることが適正価格で発注するためには大事です。
なお、工事スケジュールについては、東京都水道局の場合は、本管の増径工事を東京都が実施してくれる補助があります。これは東京都に申請を出してから3-5か月の予算取りのためのスケジュール期間が必要ですぐには実施出来ないことを頭に入れておきましょう。
総会決議、組合員が不安に思うことに応える資料つくり
直結方式について増圧直結方式か(特例)直結給水方式かが決まり、業者選定、費用、工事スケジュールが決まったらいよいよマンションの総会決議です。総会に向けて議案は管理会社が作ってくれますが、冒頭で説明した通り特別議決事項は3/4の賛成が必要で簡単に議案を通すことは出来ません。管理会社及び給水設備工事を依頼する工事会社にも協力してもらい慎重に議案をつくる必要があります。
また議案を通すにあたって最上階に住んでいる方には、一人一人戸別訪問して、どう変わるのか、メリット・デメリットは何なのかということについて説明をしたほうが良いでしょう。直結にする際の東京都の条件承諾書にも理事長が署名する必要があるので、給水制限のときの東京都水道局の対応についても、最上階の人には予め説明しておくことが丁寧な進め方です。
給水方式への切り替えについては以下のポイントが整理されていると説得力あります。
スケジュールについては、図4が私たちのマンションが総会向けに作成した資料です。
総会での決議は全会一致が望ましいですが、3/4の組合員の賛成が得られれば決議されてすすめることが出来ます。ここまでやっても総会で反対する人がいるかもしれません。その理由が理にかなった理由であれば見直し、或いはさらなる検討で再び総会を実施すればよいです。しかし、反対理由が単なるクレームであれば、決議してしまう事でもやむを得ないと思います。管理組合はマンション全体のメリットを考えて運営することが大事です。
まとめ
マンションの給水設備を貯水槽方式から、直結方式(増圧直結方式または、(特例)直結給水方式への給水設備変更工事について、準備段階から総会決議を通すまでのノウハウをまとめました。なお、2020年6月に無事に工事もおわりましたので、工事完了編も是非ご覧になってください。
これ以上のノウハウは、いろいろありますし実際に私のマンションで行った資料もありますので、参考にしたいという方はメール連絡くだされば出来る範囲で協力させていただきます。
以上(2019年11 月25日)