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都市農地を小平市の財産として守ろう

投稿日:2020年3月7日 更新日:

※都市農地の現状について、 生産緑地法、税制、都市農業振興基本法、 都市農地の貸借の円滑化に関する法律 などについては調査して間違いのないように記述しています。 もし読まれた方で間違い等にお気づきの方は、是非お知らせ頂けるとありがたいです。

小平市の面積は、20.51km2(20,510,000m2)。市内の生産緑地は、 第1回小平市農業振興計画検討委員会(2016/8/19) の資料によると、毎年減少し続けて、2017年時点で173.4ha(1,734,000m2、市の8.5%の面積)になりこの15年で、19.4%面積が減少しました。農家の戸数は353件まで減少しました。私が小平市に住み始めたのが、2002年は215.2ha、403件の農家がありました。

図1.小平市の生産緑地と農家戸数
第1回小平市農業振興計画検討委員会(2016/8/19)より抜粋

相続税など税制の問題が大きな要因です。2015年までは都市農地は宅地化する前提でしたが、2015年以降、少しずつ保全の対象として風向きが変わり始めました。 今回は、多摩地区に残された都市農地が、何故減少してしまうのか法律的な問題と、どうすべきなのか?について自分の意見をまとめました。

日本の都市農地についての位置づけ(2015年まで)

1968年に現在の都市計画法の骨格となる改正が行われて、都市に、都市計画区域が定められて、都市計画区域は、概ね10年以内に市街化(宅地化)をする市街化区域と、市街化(宅地化)を抑制すべき市街化調整区域が設定されました。

小平市の 20.51km2 は全域市街化区域として、 概ね10年以内に市街化(宅地化)をする土地となりました。1968年時点では、小平市の農地は宅地化する前提とされました。そして2020年現在も都市計画の大きな方針という意味では、変わっていません。

1974年には、生産緑地に指定されると宅地並み課税が免除される制度が策定されました。1991年に生産緑地法及び、税制が改正されて1992年に「宅地化する農地」と「保全する農地(生産緑地)」が明確に区分されるようになりました。生産緑地指定をうけると、生産緑地の固定資産税の減税(農地課税)と相続税の納税猶予措置を受けることが出来るようになりました。

生産緑地は、農家本人が死亡するか、1992年の生産緑地の指定後30年が経過すると市に買い取り請求を申し出ることが出来ることになっています。 農家本人(就農者)が死亡すると、相続人は選択を迫られます。相続人が終身営農を選択する場合は、相続税の納税猶予措置を受けて生産緑地として農業を継続できます。相続人が終身営農を選択しない場合は、市に買い取りを申し出ることが出来ます。または相続がなくても、生産緑地指定から30年経過すると、市に買い取りを申し出ることが出来ます。

但し、買取の申し出があった都市農地を市が買い取る事が出来ない場合は、農家に売却のあっせんをし、それでも買い手が見つからない場合は、転用が可能となります。小平市の場合は、主にデベロッパーに販売されて、宅地になっています。小平市の場合は、以前都市計画課に問い合わせたところ、農地が都市計画道路の計画がある場合では買取の実績があるもの、農地として保全する目的で生産緑地を買い取って実績はないそうです。都市農地買い取りには多額の予算がかかるため、簡単には買取れません。多摩地域における都市農業の保全と振興に関する調査研究報告書によると、参考―52ページに、自治体による生産緑地の買取を推進する、としているのは小金井市と多摩市の2市のみでした。これは小平市だけの問題ではない問題です。生産緑地法は、生産緑地を守るための法律ですが、無理がある法律なのです。

図2.相続税と生産緑地法による納税猶予措置

相続税の納税猶予措置 を受けるためには、終身営農が必要です。後継者がいない限りは終身営農は難しいため、実質子供が営農することが前提でないと相続税の納税猶予措置は受けられませんでした。

納税猶予措置を受けて生産緑地部分の相続税を猶予されている相続人が疾病等により農業に従事することが困難である等の特別の事情があるときは、生産緑地法の第十五条によると、同じく市に買い取りを求めることが出来ます。しかし、税制は大変厳しく、 猶予されていた相続税の全部又は一部と利子税を納税す ることになります。相続税の滞納とみなされて、利子まで支払わないと行けなくなることになっています。そうなると、相続人が納税猶予措置を受けて営農すると言うことは相当な覚悟が必要です。

後述しますが現在は、都市農地の賃借が簡単になったので、貸しだすことで身体が不自由となっても終身営農も可能となっていますので、多少相続税の猶予は受けやすくなっています。

仮に相続人が営農継続を選択しても、住宅部分やその他不動産などに相続税がかかるため実質は生産緑地の一部を、市に買い取りの申し出をして宅地化しているのが現状です。図2の左下のブロックの生産緑地の一部売却という部分をご覧ください。生産緑地減少の現実は、税制、とくに相続税の問題が大きいのです。この件に関しては、具体的にある架空のモデル農家でシュミレーションで示します。

生産緑地法は、都市部の生産緑地を守るための法律ですが、相続税猶予措置があまりに厳しく、農家に対して重いプレッシャーとなっていて決断しづらいこと、さらに、市による買い取り制度は実質、宅地化を意味しており機能していないことが都市部の農地を減少させていると言えます。

日本の都市農地が保全の対象へ ~2015年都市農業振興基本法、2017年生産緑地法改正、2018年都市農地の貸借の円滑化に関する法律~

ここまでの日本の都市農地の位置づけは1968年の都市計画法の市街化区域の考え方そのもので市街化(宅地化)の対象であり保全する意図は感じられません。しかし、時代と共に都市化のニーズから、都市農地の保全についてのニーズが高まって行きます。東京都が2015年に行ったインターネット都政モニターアンケート(n=475)によれば、2015年には、85.5%の人が東京に農業、農地を残したいと回答しています。

都市農業・農地への期待としては、同アンケートによれば、新鮮で安全な農畜産物の供給がもっとも期待が高く、緑や環境の保存が2番目、農作業体験や食育などの教育機能が3番目という順番になっています。

図3. 東京都が2015年に行ったインターネット都政モニターアンケート(n=475)
都市農業・農地への期待

また日本の人口も減少に向かい首都圏への人口集中や、住宅ニーズが一段落して、むしろ空き家増えていることが問題になっています。

そして、いよいよ都市農地の見方が変わっていくことになります。

2015年4月に、都市農業の安定的な継続と多様な機能により良好な都市環境の形成を図ることを目的に都市農業振興基本法が施行されました。都市農業が、宅地化(都市化)すべきものから、農業振興施策の対象に変わったのです。この法律に基づいて、 国は都市農業振興基本計画を策定して各自治体では農業振興計画が求められて、小平市でも小平市農業振興計画が策定されました。

この流れで2017年に生産緑地法が改定されました。 生産緑地指定から30年が2022年なのですが、これを2022年問題と呼ばれており大量の農地の買取申し出が発生するのではないかと懸念されていました。しかし、2017年に生産緑地法が一部改正されて、買取申出の開始時期を所有者等が自らの意思により10年延長する選択をして、特定生産緑地に指定すると、10年間は相続税の納税猶予を継続できることになりました(現行制度の継続)。もし、特定生産緑地制度の指定をしない場合は、いつでも生産緑地の買取申出が可能となりますが、固定資産税等が段階的に引き上げられることになっています。

これまで通り生産緑地の優遇は継続されるので、ひとまず生産緑地法を改定して、2022年問題は先送りしたと言えるでしょう。

また、これまで500m2以上の農地でないと生産緑地に指定されなかったのですが、300m2以上の農地でも生産緑地に指定できるようになりました。これにより農家の庭先などのスペースでも生産緑地とすることが出来るため、優遇措置を受けやすくなっています。

さらに、2018年6月には、 都市農地の貸借の円滑化に関する法律が施行されて、2018年9月から都市農地の貸し借りが円滑になりました。これまでは農地法第3条にて、所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権などを得る場合は、自治体の農業委員会の許可が必要でした。また賃借契約が終了しても、両者の解約の合意がなければ、賃貸借は解約されないとされていました。そのため貸し手に不安があり、簡単に賃借することが出来ませんでした。

今回の都市農地の貸借の円滑化に関する法律によって、貸し手の農家がいることが前提ですが、個人・法人など借り手が、賃借期間、借りる農地の場所、耕作の事業に関する計画(事業計画)を作成の上、自治体に提出して、自治体の農業委員会の決定を得て、市区町村長は認定します。また市民農園などを開設したい事業者や個人もこの法律をつかって賃借することが出来ます。賃借期間が決まっているので貸し手も安心して貸出出来ます。

さらに、相続税の猶予を受けたままでも、賃借が可能となりましたので、病気や怪我などやむを得ない事情で終身営農できなくなった場合も、 都市農地の貸借の円滑化に関する法律 で、借り手に貸すことで相続税猶予を継続することが出来るようになりました。相続人がいなくても終身営農を選択しやすくなりました。

図4. 都市農地貸借法 によるメリット
都市農地貸借法(正式名:都市農地の貸借の円滑化に関する法律)の概要より

なお、小平市では農業委員会の委員からヒアリングしたところ現在、新規就農者(個人)が1名、既存就農者2名が農地を賃りて農業を行っているようで、早速、 都市農地の貸借の円滑化に関する法律 は活用されているようです。

賃借が出来るようになったことは前進ですが、まだ宿題が残っています。例えば、 財政都市農業振興基本法の「 第八条 政府は、都市農業の振興に関する施策を実施するため必要な法制上、 税制上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない」としていますが、「税制上の措置」は、2020年3月現在、具体的には定められておらずこれから具体化するものと思われます。

都市農地縮小の最大の要因は?相続税と固定資産税

日本の相続税の税率は資産が6億円を超える場合は、控除額7200万円を除いて、最大55%です。

図5.国税庁、相続税の税率より抜粋

6億円を超える小平市の土地では、どのくらいの面積にあたるでしょうか?小平市の路線価によると1m2あたりの15万円から20万円くらいの価値があるとされています。15万円/m2、及び20万円/m2で計算すると

  • 路線価15万円の土地 —- 4,000m2で6億円
  • 路線価20万円の土地 —- 3,000m2 で6億円

小平市の353件の農家の生産緑地は以下の通りです。

図6. 小平市の農家353戸の経営耕地面積
第1回小平市農業振興計画検討委員会(2016/8/19) の資料より

仮に6億円の相続税を支払う必要がある農家を農地で計算すると、3000m2~4000m2=30a~40a(アール)ですから、30-49a以下の農家である223戸(63%の農家)の農地に相当します。大部分の農家は農業をやめないといけなくなります。なお、実売価格は路線価の2割程度高い価格で売買されています。都市農家は、生産緑地以外の家屋や、生活の糧のためのマンションやアパートのような不動産をもっている場合が多く、相続税は、億単位で支払っているのが実態です。

農業で稼げる売上は以下となっています。

図7.農産物販売金額規模別経営体数
第1回小平市農業振興計画検討委員会(2016/8/19) の資料より

農作物の販売=売上で、 (売上から肥料、種、苗、 資材など原価を引いた) 利益ではありません。利益は公開されていません。売上1000万円を超える農家も9件2000万円を超える農家も3件ありますが全体的に売り上げは高くはなく、相続税に備えて、億単位の貯金をつくるのは難しいことがわかるでしょう。

小平市の世帯数は、91,602(2020年1月現在)ですが農家はわずか353件、0.38%です。主に農家だけがしょい込んでいる問題といえるでしょう。

固定資産税はいかほどかかるのでしょうか?1991年に生産緑地法及び、税制が改正されて1992年に「宅地化する農地」と「保全する農地(生産緑地)」が明確に区分されました。

図7.生産緑地の固定資産税
農地の保有に対する税金(固定資産税) より抜粋

「保全する農地(生産緑地)」は、農地評価で、農地課税となるため、10a(1,000m2) でも数千円でかなり優遇されているのに対して、宅地化農地は三大都市圏の特定市の市街化区域農地にある通り、宅地並評価で、宅地並み課税で、10a (1,000m2) で数10万円の支払いが発生します。小平市の場合は、全域が市街化区域で都市計画税もかかりますが、同様の考えたになっています。

さて、相続税は国の税収になります。固定資産税・都市計画税は小平市の税収になります。これらの税収の重みはどのくらいなのでしょうか?

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図8.相続税収(推移)
財務省 相続税の改正に関する資料より

2019年度までの過去5年間を見ると、2兆1千億円~2兆3千億円程度です。

図9.2018年度日本の国家予算の参入と産出
平成30年度一般会計歳出・歳入の構成

税収全体が59兆円で国債をつかって、97.7兆の予算を組んでいることがそもそも異常なのですが、それはさておき、相続税 2兆2,400億円 は税収 59兆790億円からみても、3.7%、国債も含めた歳入 97兆7,128億円から見ると2.2%に過ぎません。相続税が不要とは言いませんが、都市農家の家屋、敷地、不動産にかけられる相続税が、農地を削り取っている実態です。 都市農業振興基本法の「 第八条 政府は、都市農業の振興に関する施策を実施するため必要な法制上、 税制上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない」 に期待したいと思います。

次に小平市の収入である固定資産税・都市計画税を見ています。

図10.小平市一般予算歳入の内訳
総務省の市町村決算カードより作成

小平市の2017年度の予算は、約641億円なのですが、そのうち都市計画税と固定資産税の和は141億円(22%)と、小平市にとって最大の収入源となっています。さらに、主要の税収を見ると、地方税(市民税)135億円(21%)、地方法人税24億円(4%)、国庫負担金が110億円(17%)、都負担金84億円(13%)とあります。なお小平市の場合は、財政力指数0.98と高く、地方税交付金は、7億9千万円(1.2%)と依存度は低いです。

さらに主要な財源だけを折れ線グラフで見てみます。

図11.小平市一般予算歳入(折れ線)の内訳と人口(棒グラフ)
総務省の市町村決算カードより作成、人口は小平市のHPより。住民基本台帳がベース。(注)外国人登録制度が廃止され、2012年7月9日より外国人住民も住民基本台帳制度の対象となる法改正があったため急増しているように見えるが、そうではない)

一番上のオレンジ色が固定資産税です。非常に安定しています。個人市町村税が2番目の赤いオレンジ色になりますが、こちらは市民の所得に応じて変動するので、リーマンショック直後の2010年に下がっているのがわかります。地方消費税交付金(消費税の地方分)の割り当てが2015年から増えていますが、これは消費税の5%から8%への増税の影響です。

人口の棒グラフに近いところにある青色が国庫負担金、緑色が都支出金ですが、どんどん増大しているのがわかります。 ここでは詳細は避けますが高齢化などによる福祉関連、児童手当、教育関連などの予算が少しずつ膨らんで併せて、国庫支出金、都支出金も膨らんでいます。

小平市の財務担当の立場になって考えてみると、国の財政状況が非常に悪い中で、やがては福祉の予算に投じる国庫支出金の比率が削減されて、あとは勝手にやってくれと言われることが念頭にあるのだと思われます。そうなったときは頼りになるのは、自主財源である固定資産税、市長村民税です。

農家の生産緑地がなくなり宅地化することは、小平市の税収という視点だけで見ると、痛みはなく、むしろ住宅が増えることで人口も増えて市民税も増加して、 固定資産税・都市計画税が、農地課税の10a(1,000m2) で数千円から、宅地に変わり、10a (1,000m2) で数10万円と増加するのでメリットがあるのです。国が制度的見直しをしてきちんと都市農地を守る歯止めが必要です。

余談ですが、2020年9月小平市議会で複数の市議が質問した回田町で2016年に売りに出された農地7,649m2の宅地開発について、 市内のある建設会社が、実質経営者が同じにも拘わらず複数の会社の宅地開発として行い、条例で定められた必要な公園をつくる義務を回避した事案でも、小平市の態度は建設会社擁護で「問題ない」の1点張り、如何に宅地を増やしたいかと言いう小平市の姿勢がよくわかります。詳しくは、 2020年9月 小平市議会議事録閲覧のHPで、キーワードに「回田町」と入れて検索すると市議の質問が出てきますのでご覧になってください。背景には市民増加、固定資産税を増やしてくれる宅地開発は、財政的にWelcomeということがあります。

相続で削られる生産緑地、リアルシュミレーション

ある農家での固定資産税・都市計画税の支払い、相続税の計算から、どのように生産緑地がなくなっていくか、シュミレーションしてみました。

図12.ある農家の土地(相続前)
図13.ある農家の土地(相続後)  758m2、9.2%の生産緑地を相続で売却

想定した架空のモデル農家は、就農者夫婦の被相続人と一緒に農業をしている息子さん夫婦4人の家族が一つに敷地にすんでいます。なくなった就農者から相続して、息子さんも生産緑地の相続税納税猶予を選択して、就農を継続しています。さらに相続人の孫の長男も就農継続に同意していると仮定にしました。収入は、農業と20年前に建てたマンションからの家賃収入という想定です。マンションを建てるときに1億円の借金をしたという想定です。

なおこの農家の収入には、モデルはいません。架空の農家を想定して計算しています。生産緑地の面積が、8,200m2と農家353件の平均より大きめの農家という設定にしています。

  • 家族構成 就農者夫婦(2名)、息子夫婦(4名)
  • 所有している生産緑地 8,200m2 
  • 所有している宅地 2,800m2、路線価190千円~200千円/m2
  • 自宅1(就農者、被相続人):316m2、築40年、建物評価額6百万円
  • 自宅2(相続人):165m2 築20年、建物評価額5百25万円
  • マンション 敷地面積600m2、4F建て、15部屋、3LDK/70m2、賃料11万円、延床面積1,080m2、築20年、建物評価額101百万円

小平市の地価は、路線価でいうと、15万円~20万円/m2程度ですが、固定資産税と都市計画税(以下、固都税)の想定としています。固都税の計算は、小平市の税率標準課税額に対して、1.4%と0.24%で計算しています。

表1.架空のモデル農家の収入の計算

架空のモデル農家年間収支内訳
収入
 農業収入4,000千円売上7,000千円、原価3,000千円
 マンション家賃収入17,820千円11万円@15部屋 12か月 (空室率10%)
     収入合計21,820千円
支出
  マンション管理費・修繕積立費・保険 5,400千円3万円@15部屋
 マンション共用部光熱費250千円
 マンション土地・建物、固定資産税2,033千円1,667千円@建物
・建物 101,800千円(建物資産価値:仮定)
固定資産税 x 1.4% = 1,425千円
都市計画税 x 0.24% = 244千円
・土地 376千円@土地
固定資産税 600 x 200 x 1/6 x 1.4% = 280千円
都市計画税  600 x 200 x 1/3 x 0.24% = 96千円
住宅1,2建物、固都税 185千円 建物資産価値 自宅1: 6,000千円 、自宅2: 5,250千円 と仮定
固定資産税(6,000+5,250) x 1.4% = 157千円
都市計画税 (6,000+5,250) x 0.24% = 27千円
マンション以外の宅地部分、固都税  1,710千円 宅地2,800m2
固定資産税2,800m2x195x1/6 x 1.4% = 1,274千円
都市計画税2,800m2x195x1/3 x 0.24% = 436千円
借金返済
 
4,116千円 34万3千円 12か月分 (マンション建設時、1億円借入、30年、金利1.5%で借り入れた想定)
     支出合計13,694千円
    所得8,126千円※国民年金保険、所得税、消費税、住民税、事業税などはここから支払い。計算は省略 

マンション家賃収入は大きいですが、マンション管理費・修繕費や、借金の返済、そして固都税の支払額も大きくて、事業を回していくのはとても大変です。

この想定したモデル農家が、就農者が亡くなってしまい相続が発生した場合の相続税を計算してみます。農地を相続した長男は、後継者のご子息がいる前提で、終身営農を選択して生産緑地法の相続税猶予を選択する想定で、他の兄弟は相続を放棄したという前提です。

表2.架空のモデル農家の相続税

資産

資産価値(千円) 内訳
土地    
 生産緑地 8,200m2 終身営農を選択、相続税猶予

※相続人が営農継続しない場合の資産価値8,200m2 x 190千円/m2 = 1,558,000千円

 宅地 2,800m2

252,000千円

2,800m2 x 190千円/m2

不動産    
 マンション 101,800千円 建物資産価値(仮定)
 自宅1 6,000千円 建物資産価値(仮定)
 自宅2 5,250千円 建物資産価値(仮定)
負債 ▲38,358千円

マンションローン残高、30年,金利1.5%の残り10年分の返済額

資産合計 326,692千円  
基礎控除額 48,000千円 30,000千円+相続人3名x6,000千円
相続税 115,346千円 326,692千円 x 50% - 48,000 = 115,346千円

この相続税を、生産緑地の価値に換算すると、売却しないといけない面積が計算できます。路線価190千円/m2の20%増しの価格で売却できると仮定します。

= 115,346千円 ÷ (190千円/m2 ÷ 0.8) = 758m2(生産緑地の8,200m2のうち9.2%を売却しないと支払いできない)

この架空のモデル農家の例では、相続で1億1千5百万円の相続税を支払う前提で、農地9.2%、758m2の生産緑地を売却するという計算になりました。

他の選択としては、マンションを売却する、あるいは宅地部分の土地を売却するなどの選択も考えられますがマンションは家計を支える収入なので売却出来ません。宅地部分の土地は売りに出したくないというのが普通の選択でしょう。農業収入をもっと上げれば良いと考える人もいるかもしれません。野菜や果物の売価を考えて、100万円、200万円と売り上げを増やすことが出来ても、相続税1億1千5百万円を支払う貯金をつくるのは難しいことは想像つくでしょう。

もし、相続人の長男(死亡した就農者の孫)が終身営農を選択しない場合は、生産緑地8,200m2を維持出来なくなるため、図2のフローに従って生産緑地をすべて市に買い取り請求するという選択もあり、宅地転用で、すべて宅地に変わるというケースもあり得ます。

農地、宅地に関係して支払う納税額を、架空のモデル農家でまとめると以下の通りとなります。

  • 固定資産税・都市計画税 3,828,000円/年
  • 相続税 115,346,000円

どうすれば都市農地は守られるか?

このような相続税については、現在の税制と生産緑地法は、国の法律であり、小平市の行政レベルではではどうにもならない話です。どんなに市町村レベルで努力しても都市農地は、相続ごとに減少していく仕組みになっています。

読んでくださった皆様はどう感じたでしょうか?資産を持っているのだから当然であると考える人もいるでしょう。あるいはむしろ生産緑地法で、農家は守られていると考える人もいるかもしれません。

私は、もはや国が税制を改めて都市農地保全すべき時期に来ていると考えます。その理由は、三つあります。

第一には、農地は人間が生きていく上で最も重要な衣食住の要素のうち、大事な食を支えています。地産地消が本来的な人間が生きていく姿と考えるからです。2019年の台風19号のような自然災害で産地が被害を受けて野菜が高騰することや、2020年のコロナウイルス騒動で物流が止まることもありえます。 日本の国力が落ちて海外から食料を十分に買えなくなる時代も想定しなくてはいけません。 なにが起こるかわからない不確かな時代です。都市近郊で農家が野菜や果物をつくる意味はとても大きいと考えています。農家がやる気が出せる環境つくり、農家に後継者がいない場合は、新規参入しやすい環境を直ちに整備すべきと考えます。

衣食住の住はどうでしょうか。人口減少が東京でも始まっており新住宅の必要性は極めて限定的になって来ています。図14は東京の区市町村別の人口増減ですが、西側、北側の市は減少が始まっており、もはや都市間の人口の奪い合いで空き家を増やす大きな要因になってしまっていて、むしろ住宅建設に総量規制すべき時代です。「東京都の人口(推計)」の概要-平成31年1月1日現在から抜粋した図を見ると、小平市の北側の東大和市、東村山市は人口減少、立川市、武蔵村山市も0-1999人の増加となっており人口減少の波に飲み込まれるのは時間の問題です。

図14. 平成30年(2018年)中の地域別人口増減数(総数)

お役所的には、人口減少の波が押し寄せてくる前に少しでも住宅を供給して定住者を増やして固定資産税を増やしたいというのは前述説明した通りですが、新規移住者を増やすことよりも豊かな農地を守り小平市の売りであるプチ田舎を大切にして、小平市で生まれ育った世代が定住してもらえる街づくりを進めるべきです。そのための都市農業の役割は大きいのです。不毛な人口の奪い合いを直ちにやめさせるように国が総量規制などを考えるべきです。

第二の理由としては、都市農家の農地の保全はもちろんですが、屋敷林を含む都市農家の宅地がまとまった大きな土地になっており、これを分割すべきではないと考えるからです。大きな屋敷が住宅地に残っていることで、景観上も美しく都心部の住宅地とは異なる価値をもたらしています。土地を分割して使い勝手の悪い土地を増やすという行為は人口減少時代にはもはや悪です。税収が減ってでも都市部のまとまった土地は保全すべきです。分割された土地が再びまとまることはありえません。将来の土地利用を考えてもまとまった土地として保全を考えるべきです。

第三の理由は、 前述の通り相続税 2兆2,400億円 は税収 59兆790億円からみても、3.7%、国債も含めた歳入 97兆7,128億円から見ると2.2%と比率が少ないから、税制を変えることで調整出来ると考えるからです。

小平市で言えば353件しかない農家に対しての優遇しすぎと考えるかもしれません。都市農家の宅地についての相続税も猶予するなら、都市農家には、生産緑地による新鮮な野菜、果物の供給だけではなくて、お宅の敷地も周辺住民に貢献してもらう必要があります。震災対策用井戸、食育、屋敷林による景観、すでに市に貢献している都市農家も多いですがもっと役割はあるでしょう。地域に貢献してもらうことを条件に、 都市農家の宅地部分の 相続税に関しても猶予を検討すべきだと考えます。

都市農地保全は、日本が今、取り組むべき大きな課題です。今こそ都市農地を小平市の財産として守ろう。

まとめ

  • 小平市の生産緑地は 毎年減少し続けて、2017年時点173.4ha(市の8.5%の面積)、 353件と減少を続けています。 この15年で、19.4%面積が減少しました。
  • 都市農家は、生産緑地法によって相続人(後継者)が終身営農することで相続税の猶予を受けられますが、相続人が終身営農をすることが難しくまた、宅地部分や不動産に対する相続税が重いことから、相続のたびに農地が減少していくのが現状です。
  • 2015年に都市農業振興基本法が施行されて、都市農地が都市化(宅地化)保全する方向に政策転換されつつあります。生産緑地が300m2から指定できるようになったり、農地の貸し借りが簡単になり後継者がいなくても終身営農による生産緑地の相続税猶予が受けられるようになりました。しかし十分な施策とは言えず、税制の改定などが今後期待されます。
  • 国は、住宅供給の必要性が薄れた今は、市町村間の人口奪い合いを助長する宅地化政策を改めて、都市農地減少の原因となる相続税を宅地部分についても猶予する措置を考えるべきです。

以上(2020年3月7日)

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    執筆者:


    1. 橋本久雄 より:

      神尾さん、力作ありがとうございます。これからじっくり読ませていただきます。
       16日から予算特別委員会なので、農地を残すための具体的な数値目標があるかなど聞く準備をしています。
       すでに終わった小川西の区画整理事業や今進行中の小川四番土地区画整理事業は公費をつぎ込んで分散した農地や土地を集約する名目で行われました。しかし、結局は土地の資産価値を高め、宅地に変わりました。
       また、今問題にしている回田町の開発など、市が緑地を残す立場で開発に向き合っていないことは問題です。
       後は読んでからコメントさせていただきます。

      • kamihoo2011 より:

        橋本さん、こちらにもコメントありがたいです。実は、相続税の計算、間違っており修正しています。改めてじっくり読んでください。
        土地区画整理事業については、相続税支払いがあるからそれまでに土地を整理して水道、電気などのインフラを引いて生産緑地を売る準備をする意味がありますよね。小川4番については、閉じた空間で、南北の交通の利便性がよくなるわけでもなく、公共性が高いとは言えないため土地区画整理事業として税金をつっこむのはどうかと思っていました。
        コメントは、FaceBookでも遠慮なくご意見ください。他の市議も読んでいいねして、くれているので、刺激にもなると思います。

    2. 橋本久雄 より:

      参考になります。一か所修正
      図10.小平市一般予算歳入の内訳
      (総務省の市町村決算カードより作成)
      の都負担金840億円⇒84.0億円

    3. 橋本久雄 より:

      参考になりました。一か所修正
      都負担金840億円⇒84.0億円

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    小平市在住の50代男性のkamihooです。40歳から本格的にフルマラソンの大会に参加し始めて、2017年11月に48歳で大田原マラソンでサブスリーを達成しました。自己ベストは2020年1月の勝田全国マラソンの2時間54分37秒です。「ジョグのねっとわーく」でランニング日記をkamihooのアカウントで公開しています。https://jogno.net/

    Twitterアカウント@kamihoo2011

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