政治・社会

2020年7月4日の球磨川氾濫と川辺川ダムについて

投稿日:2020年7月20日 更新日:

※)2020年8月18日更新、球磨川の水量計算に胸川、鳩胸川の流量が加味されていないと指摘があったため、図7と図8で計算が合わない部分について見解を加えています。

令和2年7月球磨川豪雨災害検証委員会の報告から、川辺川ダムの効果を検証したブログは以下を参照ください。

川辺川ダムが存在したら、令和2年7月球磨川豪雨災害はどの程度削減されたのか?

2020年7月4日に、熊本県人吉市、球磨村中心に大被害をもたらした球磨川の氾濫と、球磨川に合流する川辺川の上流で計画されており現在計画が凍結されている川辺川ダムについて書きたいと思います。

2019年は、関東地方中心に台風15号、19号による災害がありました。台風19号で八ッ場ダムは利根川の洪水をすくったのか?で八ッ場ダムと台風19号について書きました。こんなに早く次の大きな豪雨災害が起こるとは予想していませんでした。

まずは今回の水害で被害にあわれた方にお見舞い申し上げます。災害直後に、蒲島熊本県知事が、川辺川ダム建設を凍結していることについての批判する声が上がりました。公表されている情報で川辺川ダムがあれば洪水は防ぐことが出来たのかを検証して改めて治水について考えてみることにしました。

今回は、以下の流れで説明したいと思います。

球磨川水系の治水対策概要

球磨川水系河川整備基本方針(2007年5月国土交通省河川局)を、国交省が公開しています。基本方針のP10,P11によると以下となっています。

図1.球磨川水系ピーク流量と洪水調節施設による調節流量
図2.球磨川水系の計画高水流量図

基本方針のP10によれば、球磨川水系の昭和40年7月洪水、昭和47年7月洪水、昭和57年7月洪水、平成7年7月洪水、平成17年9月洪水及び平成18年7月洪水等の6回の既往洪水から、人吉におけるピーク流量は7,000m3/sであるとしています。

球磨川の人吉観測点前後を流せる高水流量として、4,000m3/sが限度なので、洪水調整施設によって3,000m3/s削減するというのが方針になっています。42%もの流量を人工的に削減するという事は、かなり無理があるように思えます。

この4,000m3/sのうち、球磨川系からは2,600m3/s、川辺川水系から1,500m3/s流入するという計算になっています、100m3/s合わないですが理由はわかりません。川辺川の高水流量は、4,000m3/sのうち、1,500m3/s となっておりますが、川辺川ダムが凍結されているため調整機能はもっていません。

球磨川の上流に洪水調整施設の市房ダム(いちふさダム)があります。こちらが7月4日の洪水の際にも機能しています。市房ダムの効果については後述します。

7月4日豪雨の人吉市、球磨村周辺の被害状況

人吉市、球磨村周辺の被害状況は、国土地理院が公表している地図がわかりやすい。令和2年7月豪雨に関する情報として、公表している地図を抜粋して、図3に球磨川の一武、人吉、渡観測所、川辺川の柳瀬観測所の位置と被害が大きかった施設の特別養護老人ホーム千寿園と、青井阿蘇神社の情報を追記した地図としてまとめました。

図3.2020年7月4日豪雨 球磨川流域、人吉市、球磨村周辺(青い部分が浸水地域を表す。濃いエリア程、被害が大きい)

なお、国土地理院は「この地図は、国土地理院が7月4日10時までに収集したSNS画像と標高データを用いて、浸水範囲における水深を算出して深さを濃淡で表現した地図です。時点情報のため、最大浸水範囲を示したものではありません。実際に浸水のあった範囲でも把握できていない部分、浸水していない範囲でも浸水範囲として表示されている部分があります。」という注記をしていますので必ずしも正確な被害情報とは限りませんのでご注意ください。

国土交通省九州整備局八代河川国道事務所によって、7月4日梅雨前線に伴う球磨川水系の出水状況についてとして、第1報から6報までで「7月4日に球磨川の観測所による水位」を発表しています。八代河川国道事務所の発表から球磨川から一武、人吉、渡観測所について、川辺川が球磨川に合流する直前の柳瀬観測所の水位情報を表1にまとめます。

表1.7月4日に球磨川の観測所による水位(単位m)(3:00AMから7:30AMまで)

 

避難判断水位LV.3

氾濫危険水位LV.4

7/4 3:00

7/4 4:00 7/4 5:30 *1 7/4 6:00 *2 7/4 7:30 *3
球磨川              
 一武 4.40 4.50 4.40 4.67 4.75 5.11 6.11
 人吉 3.20 3.40 2.93 3.31 3.69 4.15 5.01
 渡 7.60 8.70 8.33 9.13 10.53 11.62 12.81

川辺川 柳瀬

4.52 4.97 6.08 7.14 7.52

国土交通省九州整備局八代河川国道事務所による発表 *1)球磨村(小川合流点)ではん濫が発生しています。*2)球磨村(小川合流点)ではん濫が発生しています。*3)球磨村(球磨川と小川合流点)の球磨川水系小川ではん濫が発生しています。人吉市街部で浸水被害が発生しています。

7月4日 5:30AMで最初の災害発表は、図3地図の下流の渡地区の小川との合流点起きています。ニュースにもなった特別養護老人ホームの千寿園で被害が確認されました。これは、球磨川の流れが強すぎて小川からの合流が出来なくなり、あふれたものと思われます。次に7:30AMには、人吉市街部で浸水被害発生の発表をしています。

毎日新聞の7月13日記事によれば、「球磨川に近い同市下青井町の電柱は昭和46年水害が1・1メートル、昭和40年水害が2・1メートル、今回は4・3メートルの高さに浸水痕があった。」として、過去最大とされている昭和40年の水害の2.1mの2倍以上の浸水被害となったことがわかります。いかに甚大な被害を被ったかがわかります。

7月4日豪雨における球磨川の上流にある市房ダム運用

市房ダムは、球磨川の上流にあります。洪水調節を主目的とし、併せて発電及びかんがいを行う多目的ダムです。国交省の資料「市房ダムの洪水調節について」によれば、過去最大の洪水となった昭和40年、46年、57年の洪水調整機能が紹介されており、それぞれ341m3/s、541m3/s、740m3/sのピークカットをしたとされています。

7月4日の市房ダムのオペレーションをグラフにしました。

図4.7月3日から5日の市房ダムの洪水調整オペレーション(下の表の元データは、八ッ場あしたの会の事務局に許可を頂いて転載しています。元データは国土交通省「川の防災情報」の球磨川水系の市房ダムデータ過去1週間分はデータが公開されており取得できます)

グラフは、赤が流入量、灰色が流出量、青が貯水量です。7月4日の3:00~11:00まで、流入量 > 流出量としてピークカットしています。最大8:00ごろには、512m3/hピークカットしています。

オペレーションは公表されている通りに運用できています。すなわち「市房ダムの洪水調節について」に記載の通り、流入量が300m3/hを超えたら流出量を絞って、ダムの貯水容量いっぱいになるまで、最大流出量を650m3/h以下とする運用です。260m3/sの流入となってから運用を開始して、流出は600m3/s以下に制御しています。今回は、277mまで水位があがり、サーチャージ水位の283mの6mにまで迫ったというデータになっていますが、熊本日々新聞の報道によると一時期、流入量が収まらなければ、9:30AMから緊急放流するという報道もあったようです。市房ダムの管理者はひやひやだったでしょう。なお、3日の17:00から予備放流といって、洪水に備えて事前にダムの水位を1.5mほど下げています。

今回の水害では、市房ダムの運用は、予定通りに運用されて最大512m3/hほど流量削減に貢献しています。

7月4日5:30から7:30ごろまでの球磨川人吉付近の推定流量

7月4日の豪雨における球磨川の流量に関して情報は7月20日時点ではありません。国交省の川の防災情報による川の断面図と、球磨川水系河川整備基本方針(2007年5月国土交通省河川局)のP12の川幅情報から、断面積を計算して、図2に記載した高水流量を氾濫危険水位の流量と仮定して、5:30と7:30の流量を計算します。

川幅の川辺川の柳瀬観測所、球磨川の一武、人吉、渡の川の断面図を確認して、流速(m/s)を確認します。氾濫危険水位が高水流量と仮定して、洪水開始前の4:00と、洪水に至った7:30で流量を計算して、仮定が合っているかどうかの検証を行いました。

図5.球磨川合流直前の川辺川の柳瀬観測所の川幅と断面(推定)
氾濫危険水位なし、氾濫注意水位6mで、高水流量1,500m3/sとする。
7月4日 5:30の水位 表1の通り6.08m(柳瀬では洪水無し)
7月4日 7:30の水位 表1の通り7.52m(図3から柳瀬では洪水無いと思われる)
1500m3/s / (100m x 3.8m) = 3.94m/s
5:30AMの推定流量 1500m3/s x 3.84(6.08mに相当)/3.8 = 1,515m3/s
7:30AMの推定流量 1500m3/s x 5.32(7.52mに相当)/3.8 = 2,100m3/s 
 
図6.球磨川の一武観測所の川幅と断面(推定)
氾濫危険水位4.5mで、高水流量2,600m3/sとする。
7月4日 5:30の水位 表1の通り4.75m(一武では洪水報告ない)
7月4日 7:30の水位 表1の通り6.11m(図3から一武では洪水始まっていた可能性もある)
2,600m3/s / (160m x 4.4m) = 3.69m/s
5:30AMの推定流量 2,600m3/s x 4.65(4.75mに相当)/4.4 = 2,747m3/s
7:30AMの推定流量 2,600m3/s x 6.01(6.11mに相当)/4.4 = 3,551m3/s 
 
図7.球磨川の人吉観測所の川幅と断面(推定)
氾濫危険水位3.4mで、高水流量4,000m3/sとする。
7月4日 5:30の水位 表1の通り3.69m(人吉市内では洪水報告ない)
7月4日 7:30の水位 表1の通り5.01m(人吉市内で洪水発生報告)
4,000m3/s / (140m x 5.2m) = 5.49m/s
5:30AMの推定流量 4,000m3/s x 5.49(3.69mに相当)/5.2 = 4,223m3/s
7:30AMの推定流量 4,000m3/s x 6.81(5.01mに相当)/5.2 = 5,238m3/s、なお、鳩胸川と小瀧川の合流は加味されていないためもっと多い可能性もあります。

2020年10月球磨川豪雨検証委員会が報告した7:30AMが最後の人吉観測所の最後の流量観測は、約5,200m3/sでした。ここでの計算はおおむねあっていることがわかりました。詳しくは下記のブログで

川辺川ダムが存在したら、令和2年7月球磨川豪雨災害はどの程度削減されたのか?
図8.球磨川の渡観測所の川幅と断面(推定)
氾濫危険水位8.7mで、高水流量5,500m3/sとする。
7月4日 5:30の水位 表1の通り10.53m(小川で洪水報告あるが渡ではない)
7月4日 7:30の水位 表1の通り12.81m(小川で洪水報告あるが渡ではない)
5,500m3/s / (140m x 8.9m) = 4.41m/s
5:30AMの推定流量 5,500m3/s x 10.13(10.53mに相当)/8.9 = 6,260m3/s
7:30AMの推定流量 5,500m3/s x 13.01(12.83mに相当)/8.9 = 8,039m3/s
=>この計算だと上流からの計算値より大きく上流の計算と合わない
渡で洪水は発生していない。高水流量5,500m3/s時、水位は氾濫危険水位より高いか、又は、支流である山田川、胸川、永野川、草津川、鹿目川の流量が大きいかどちらかと思われます。

図5から図8までの計算値を、元に計画高水流量と、7月4日のAM5:30とAM7:30 の推定される水流をまとめると図9のようになります。

図9.球磨川計画高水水量と、7月4日の5:30AMと7:30AMで計算される流量水量と氾濫について

球磨川は5:30AM 2,747m3/sの流量、7:30AMでは3,551m3/sまで流量増加、川辺川からは、5:30AM 1,515m3/sの流量、7:30AMでは2,100m3/sまで流量増加して、球磨川に合流、合流点の人吉観測所では、5:30AMでは、4,262m3/sの流量でぎりぎり氾濫は始まっていなかったが、7:30AMごろには、流量が5,651m3/sとなり、人吉市内に氾濫が始まって、人吉観測点では5,238m3/s程度の流量となって、413m3/s程度で氾濫していたと推定されます。

川辺川ダムの概要、その効果、凍結の経緯

川辺川ダムの概要は、川辺川を考える住民討論集会と 森林の保水力の共同検証等の概要の資料の川辺川ダム概要にまとめられています。球磨川上流の市房ダムの概要と共に、表2に併せてまとめます。

表2 凍結中の川辺川ダム容量と球磨川上流の市房ダムの容量

 

川辺川ダム(現在計画は凍結)

(球磨川上流)市房ダム
総貯水容量 千m3 133,000 40,200
有効貯水容量 千m3 106,000 35,100

洪水調節容量 千m3

84,000(第一期)

53,000(第二期)

8,500(6月11日~7月21日)

川辺川ダムは、市房ダムの規模の3倍程度、洪水調整容量は6~10倍の規模があります。市房ダム以上の調整能力を発揮するのは間違いないでしょう。

7月4日の水害から氾濫危険水位で、計画高水水量であったという仮定により計算した流量に基づいて検証してみます。

表3 川辺川に求められる洪水調整機能

  球磨川(人吉) 球磨川(一武) 川辺川(柳瀬)
高水水量  4,000m3/s

2,600m3/s

1,500m3/s
7月4日7:30AM計算値

5,651m3/s うち423m3/sが洪水で5,238m3/s

3,551m3/s(市房ダムで、512m3/s削減) 2,100m3/s

7月4日の7:30AMの水位と高水流量から計算される人吉における球磨川の流量は、5,651m3/sで、うち423m3/sが氾濫して、5,238m3/sが下流に流れたと計算されました。約5,200m3/s以上の水量で洪水は起こる計算になります。球磨川(一武)では、3,551m3/sと計算されるので、仮に川辺川を計画高水水量の1,500m3/sに抑えたとしても、5,051m3/sとなり、高水流量の4,000m3/sを大きく上回っており、洪水は起きていた可能性は高いと考えられます。

7月4日洪水で、川辺川ダムが仮に完成していたとして、求められた機能は、今回の例でいえば、2,100m3/sを、500m3/sまで下げないといけません。表2の通り、川辺川ダムの容量的には1,600m3/s削減可能かもしれない。但し、雨が、川辺川ダムの上流に集中するケースならば川辺川ダムで洪水調整出来た可能性はありますが、7月4日の球磨川のように降雨線状帯として流域全体にしかも長時間豪雨が続く場合では、川辺川ダムがあったとしても流域全体の水量調整は出来ず洪水に対応できなったのではないかと考えます。

なお、2003年12月に熊本県企画振興部が作成した「川辺川ダムを考える住民討論集会」論点(治水・環境)によるとP3の洪水調整流量として、川辺川ダムで2600m3/s下げて、水位を2.5m下げると記載があります。繰り返しになりますが、川辺川ダムの上流で2,600m3/sの水量があれば、実現可能かと思われますが、降雨線状帯がどこにくるかによりますので、この部分は、あるケースでは機能すると差し引いて考えるべきでしょう。

川辺川ダムが存在したら今回も機能して洪水被害を削減できたことは言うまでもありません。ダムの機能そのものを否定しているわけではないので留意ください。

なお、京都大学防災研究所の報告では、球磨川周辺の降水量がグラフ化されています。球磨川、川辺川流域全体に雨が降ったことがわかります。同研究所の2020年7月球磨川水害速報(市房ダムおよび川辺川ダムに着目して)第3報(2020.7.13作成)では、7月4日の災害についてダムがなかったら8,200m3/sで、実際には市房ダムのみ機能で約7,600m3/s (93%)に減少で、 川辺川ダムの効果として市房ダム+(仮に完成していたとしたら)川辺川ダム(200m3/s一定放流)で、約5,300m3/s (65%) に減少としており、私の計算よりもっと大きな約7,600m3/sという流量が現実には球磨川に流れてきたと報告しています。

さて、川辺川ダムは何故、現在凍結されているのでしょうか?

熊本県の「球磨川治水対策協議会・ダムによらない治水を検討する場」

国交省九州地方整備局が公開しています。もともとの昭和38、39、40年と連続で災害が相次ぎ、当時の熊本県知事が国に陳情を出して1969年には建設事業が着手しています。2001年には土地収用法の申請をしているので、地元の理解が得られず用地買収に苦労したことがわかります。

八ッ場あしたの会が熊本日々新聞の社説を引用しています。2008年3月に蒲島現知事が立候補した際に、川辺川ダム建設に慎重な姿勢をみせており、2008年9月に県議会で白紙撤回を表明して凍結にいたっています。蒲島知事の発表に先立って、当時の熊本県相良村村長や人吉市長も反対表明していたようです。

熊本県球磨郡相良村を流れる川辺川のさらに北側の球磨郡五木村に川辺川ダムの建設予定地があります。人吉市は、川辺川ダムが出来ることで洪水被害が緩和される受益者です。今回も甚大な被害が人吉市には発生しています。建設予定地の村と、最大の受益者である人吉市が反対したことは大きかったのでしょう。国交省九州地方整備局が公開している進捗を抜粋すると、用地取得98%、家屋移転99%、代替地(宅地)100%、付替道路90%とかなり進捗しており、工事は、進捗率は記載がありませんのでわかりませんが、2013年以降はすすんでいないようです。

なお費用については、こちらの国交省九州地方整備局の2008年8月の資料によれば、貯留型ダムで総事業費約3,400億円で、残事業費1,300億円、流水型ダムで総事業費3,300億円で、残事業費1,200億円とされていますが、はっきりと川辺川ダムについての費用という記載がないことと、12年前の資料なのであくまでも参考情報で正確な情報としてとらえないようにご留意ください。

川辺川ダム建設を凍結させたうえで、蒲島知事は、国交省九州地方整備局とともに、「球磨川治水対策協議会・ダムによらない治水を検討する場」というものを立ち上げて、球磨川治水対策について検討してきました。

パブリックコメント用に公表された資料によると①引堤案②河道掘削等案③堤防強化案④④遊水地(球磨川本川、川辺川筋)⑤ダム再開発案(市房ダム再開発案)⑥放水路案⑦流域の保全・流域における対策案⑧宅地のかさ上げ等案⑨輪中堤案などが検討されています。

2008年から検討しているようですが、合意形成やコストの問題でなかなか着手できないようです。蒲島知事は、7月6日の熊本日々新聞で、市房ダムの緊急放流(ダムがいっぱいになりやむを得ず放流する運用)のリスクにも言及しつつ、「極限まで、もっと他のダムによらない治水方法はないのかというふうに考えていきたい」とインタビューに応えています。

球磨川流域の水害は、大きいものだけでも昭和40年7月洪水、昭和47年7月洪水、昭和57年7月洪水、平成7年7月洪水、平成17年9月洪水及び平成18年7月とあり、流域住民にとって決して忘れることが出来ない災害であり過去の記憶ではないはずです。

人吉市や相良村の長や、熊本県知事の決定を住民が支持してきたから「ダムによらない治水」にいたっているわけで、熊本県民が民主的に選択した結果と考えるべきでしょう。

これからの治水はどうあるべきか?

2019年の八ッ場ダムは、台風19号で八ッ場ダムは利根川の洪水をすくったのか?でも事実を自分なりにしらべて考察しましたが、今回の7月4日の球磨川水害でますます確信していることがあります。

河道掘削、堤防、ダム、どんなに人の手による対策を行っても、近年の異常気象は設計を超えたレベル・頻度で災害に至るということです。これまで、70年、80年に一度と考えていた水害も、近年では10年、5年に一度の水害になって来ているということです。

実施できる水害対策は行いつつも、2050年までに日本の人口が9700万人にまで減少すると言われているこの時期をチャンスとして、水害のリスクのある河川流域の浸水想定区域の住民には少しずつ移転を促して行き、通常は(保障が限定される特別な)農地や公園として利用可能な調整池にしていくのが良いと考えます。

川辺川ダムに関しては、今回の災害を機会に再度検討される可能性はありますが、今回の水害は被害を削減することは出来ても、防ぐことは出来なかったというのが、私の検証の結論です。

選挙の際に争点として川辺川ダムについても明確にして選ばれている知事が進めている「ダムによらない治水」は継続すべきと考えます。球磨川の計画高水水量と過去の何度も起きた水害を見れば、同じことが起こることは想定したうえでも、「ダムによらない治水」を選択して検討してきたはずだからです。

但し、ダムによらない治水について検討ばかりで進んでいないという印象を与えてしまっているのはまずいと思います。着手できるところから着手をして、少しでも安全対策をして住民にアピールしていくことが大事ではないでしょうか。

例えば、球磨川については図3でもわかりますが、人吉観測所と渡観測所の間の川の北側に彎曲している部分は被害が大きいです。球磨川を直線にすることは出来ないのでしょうか?Google Earthで見ると彎曲部分に住宅地があるので保障が重いとは思いますが、この部分をまっすくにすれば、洪水は起こりにくくなると思われます。

ダムの運用に関しても、ソフト面の対策をもう少しシビアに検討すべきです。市房ダムのような治水と利水の両面がある多目的ダムについて、災害前にはさらに事前放流して、洪水調整容量を増やすべきだと思います。今回も市房ダムは事前放流で1.5m水位を下げましたが不十分であると感じました。利水利用者との間で水がたりなくなった場合は、補填するなどで合意を得てもっと水位を下げるべきだと思います。2019年の八ッ場ダムも、今回7月4日の市房ダムも緊急放流直前まで水位はあがっています。利水はもちろん大事ですが、治水のためにさらに緊急時の対応がしやすくなるように豪雨の前にダムの水位をドラスティックに下げられるような運用が求められます。

今回の7月4日の球磨川水害については、国交省や熊本県は、わかりやすく何が起こったかを検証して公表頂きたいと思います。行政側は材料をわかりやすく整理して、幅広く住民、県民、国民に意見をもとめてもらいたいと思います。

川辺川ダムについては、用地買収や付替道路が概ね終わっていることもあるため、開発再開の声も高まるかもしれません。住民が考える機会を深めて今後の方針を決めるうえでは、五木村、相良村、人吉市、球磨村などではその是非について住民投票を行うのも良いと思います。首長が今後の治水を考える参考にする材料となる住民の声を聴く機会になります。

東京に住んでいる私がこのように書くと無責任に見えるかもしれませんが関東でも2019年の台風19号のように利根川、荒川、多摩川での水害のリスクも高まっており多摩川では内水氾濫が起こっていますし、2019年は関東各地で水害がおこりました。比較的災害が少なかった東京に住む人にとっても治水はもはや他人事ではありません。

異常気象による水害が相次いでいることを踏まえて、治水について国民は何を選択して、何を許容するかを考えて行かなければ行けない時期に来ています。

まとめ

  • 球磨川の治水対策は、人吉市付近で7,000m3/sある計画高水水量を、洪水調整機能で、4,000m3/sに抑えることが基本方針としています。球磨川は2,600m3/s、合流する川辺川は1,500m3/s以下に制御することになっていますが、川辺川には洪水調整施設が用意されておらず無理がある計画になっています。
  • 7月4日の豪雨で、球磨村、人吉市の球磨川流域は洪水となり、人吉市下青井町の電柱は昭和40年水害が2・1メートルの被害に対して、今回は4・3メートルまで浸水して過去最大の被害となりました。
  • 球磨川上流の市房ダムは、7月4日の未明から流出を600m3/s以下に抑えて、7月4日8:00AMには最大512m3/sのピークカットに成功して機能しました。
  • 計画高水流量を氾濫危険水位の流量と仮定して、5:30と7:30の流量を計算すると、人吉観測所で7:30AMの時点で、5,651m3/sとなっており、うち423m3/sが洪水で市内に流入して、5,238m3/sが球磨川に流れていると計算されました。
  • 川辺川ダムは、市房ダムの6-10倍の洪水調整能力をもっているため、もし完成していれば被害を削減する効果は発揮されました。
  • しかし高水流量を氾濫危険水位の流量と仮定して球磨川分の流量を計算すると計画高水水量の4,000m3/sに迫る3,551m3/sと計算されます。川辺川からの流量も2100m3/sと計算されます。
  • 川辺川ダム完成していて、今回の豪雨が川辺川ダムの上流に集中していれ計画高水水量の機能して、計画高水水量以内の4,000m3/s以下に制御できた可能性はありますが、今回のように線状降水帯が流域全体に豪雨をもたらす場合は、その上流の流量を制御するダムは必ずしも効果的に機能したとは言えず川辺川ダムが完成していたとしても洪水を防ぐことが出来たとは言えないと考えます。
  • 2008年から知事を務めている蒲島知事は、川辺川ダム凍結も選挙の争点として選ばれた知事であり、その知事が行ってきた「ダムによらない治水」の検討は継続されるべきです。今回の水害で、早急に結果を出すことが求められています。
  • 近年の水害は規模が大きくなり、頻度も増えており根本的な対策を考えるべき時期に来ています。これは熊本だけではなく東京も同様です。流域の住民ではなく国民の問題として考えていくべきです。
  • 人口減少が始まっている現在は、浸水想定区域から徐々に移転していくことを促す時期に来ています。

以上(2020年7月20日)

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    執筆者:


    1. ホゲタロウ より:

      すいません流量計算するところで胸川、鳩胸川とかの流量は計算に入れなくて良いんですか?
      少し疑問に思ったもので

      • kamihoo2011 より:

        コメントありがとうございます。https://www.facebook.com/tewatasukai/posts/2180412148771746
        をみて、鳩川、鳩胸側ほか、人吉と渡観測所の間に支流がいくつもあることに気づきました。
        図7と図8で計算している流量には、支流の分加味されていません。で、人吉分5238m3/hと万江川の合流の分は情報がないため、計画高水水量で計算していますが、950m3/hを加えて6188m3/hになります。しかし、渡観測所の氾濫危険水位が計画高水水量と仮定して計算した流量は、8,039m3/hとぜんぜんあいません。
        この差が、もしかすると多くの支流からの分なのかもしれません。そう考えると説明がつきます。本文も少し修正します。ありがとうございます。

    2. […] 2020年7月20日に書いたブログ「2020年7月4日の球磨川氾濫と川辺川ダム」で球磨川水系の治水対策や、川辺川ダムの効果を、流速一定の素人計算で、7月4日の流速を多少検証してみました。 […]

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    Twitterアカウント@kamihoo2011

    毎週土曜日朝7:00から8:00まで小平中央公園噴水前集合で初心者やシニアと準備運動とジョギングしています。簡単なアドバイスもしています。よろしければ一緒に走りましょう。

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