住民投票 小平市 政治・社会

小平市長 小林正則氏の著作「住民投票」を読む

投稿日:2020年3月14日 更新日:

⼩林正則⽒は、2005年の市⻑選挙で当選し て、2020年現在、⼩平市⻑の4期⽬を務め ている⽅です。この⼩林⽒が、「住⺠投票 ドキュメント3・2・8号線と市⻑の⼀⾔」という本を⾃費出版されました。⽀持者など⾝近な⼈にだけ配布する⽬的で書かれたもののようです。

「住民投票 ドキュメント3・2・8号線と市長の一言」小林正則氏 著作(自費出版)

小林氏の著作について書くブログの内容は、あくまでも私個人の意見です。当時たくさんの人の協力で「小平都市計画道路に住民の意思を反映させる会」が実現した住民投票の運動団体としての意見ではないことを予めお伝えしておきます。

本書は、東京都の事業である都市計画道路の小平3・2・8号線計画に対して小平3・2・8号線について 「住民参加により計画を見直す」「計画の見直しは必要ない」 の2択で問う小平市の住民投票について書かれたものです。2013年5月26日にこの住民投票は実施されましたが、有権者 145,024人 のうち、 51,010人が投票したものの投票率は35.17%で、成立要件50%に満たされずに、住民投票は無効となり非開票となりました。この50%成立要件をつけた条例改定案を市議会に提出したのは、小林氏でした。当時は市民やマスコミからこの成立要件をつけた条例案についてかなり叩かれていました。

現在、小平3・2・8号線(新府中街道)は、2013年7月に国交省から東京都に事業認可が下りて、用地買収を進めているところです。最近は玉川上水の南側および、たかの街道の北側の用地買収が進んでおり住居もまばらになってきました。まだ用地買収には時間は要するでしょう。しかしあと5年後か、10年後かわかりませんが開通します。玉川上水には36mの大きな4車線の橋がかかり、中央公園の東側の雑木林は32mの幅の大きな道路に変わり、静かな住宅街の主役は人間から、騒音、振動と排ガスを出す車になります。2013年に実施された小平市の住民投票は「住民参加による見直し」という意味では効果はゼロでした。これは目を背けられない現実です。

2020年3月20日の小平3・2・8号線予定地の様子、1枚目:玉川上水南側住宅街から、2枚目: 玉川上水緑道南側から撮影した玉川上水と雑木林、3枚目:小平中央公園の東側から撮影した雑木林、4枚目: 用地買収が進んでいる青梅街道南側の住宅地

小平3・2・8号線予定地、玉川上水南側の住宅地から撮影、奥に見えるのは玉川上水緑道の樹木 小平3・2・8号線予定地、玉川上水南側の緑道から撮影、奥に見えるのは小平中央公園の雑木林 小平3・2・8号線予定地、小平中央公園の東側から雑木林を撮影 小平3・2・8号線予定地青梅街道北側の住宅地、用地買収が進んでいる。

本書を読んでまず感じたことですが、小林氏にとって、小平市の住民投票は黒い歴史であり気にしており、本書によって自分が行った判断、50%成立要件による不成立(非開票)という条例案を市議会に提出したことは間違いではなかったとして、黒い歴史を白い歴史に塗り替えたいと言う意図があるということです。

本書で小林氏は50%成立要件は必要だったと主張されているのですが、この住民投票に関わったものとして見過ごすわけには行きません。小平市の住民投票以後も、国内の住民投票の事例を追いかけておりますが、50%成立要件の事例は後世に悪影響を与えています。2016年以降に実施された住民投票の課題と解決についてという記事では、実施された住民投票が常設型住民投票条例の規定の50%成立要件によって不成立、非開票となった3件紹介しています。2017年の輪島市で行われた産業廃棄物処理施設の是非を問う住民投票では、議会で市長が 「賛成の人は投票へ行かないのも選択肢の一つ」 とボイコットを呼びかける発言がありました。投票に行く人は反対派のような印象を与えてしまう投票権を侵害するような悪い例まで出てきています。2019年浜松市で行われた住民投票は議員提案でしたが、別の議員が50%成立要件提案をして条例が改変されています。由々しき問題であり改めて50%成立要件についての問題を指摘して、より優れた基準となる得票数1/4(25%)の尊重要件の代替案を示したいと思います。

今回は以下の流れで、本書にについて以下の切り口で意見しようと思います。

開発と環境に対する小林氏の考え方について

さて、本書で小林氏の環境に対する考え方が1編から3編までに少しずつ記述されています。若いころ議員秘書だった時代のエピソードや、市議、都議時代の体験がかかれています。印象に残るのは、1編4章の「緑化政策は住民自身の生活問題」の冒頭で書かれている『緑をもとめて住んでいるあなたは方の住宅は、私を含めて樹林地を伐採し田畑を潰して建てた歴史の上にある事実なのだ。自分の住宅開発は良いが隣接する他人の住宅開発は許せないのでは、自分勝手ではないかと言いたい』という記述があります。

続いて、緑を囲まれた住居の落ち葉の苦情や害虫、樹木の成長による日陰の苦情 などから伐採してくださいという苦情が入ると、逆に、別の市議を通して、何故貴重な樹木を切るのかという猛反撃を受けて、市の担当課は常に反対派、賛成派の間で判断が迫られる。遠くの緑は良いが、近くの緑は迷惑だという問題に遭遇した、皆、もう少しお互いを思いやり寛容になるべきという記述があります。

この論理は説得力があります。環境を犠牲にした開発を繰り返して人類は発展してきたのは紛れもない事実です。自分の住居は緑の中に確保したいけど景観、日照りを確保したいから住居が増えて欲しくない、と考えるのが人間です。また、自宅から少し離れた場所の緑は落ち葉の清掃などしなくて良いですが、自宅の前に緑があると、庭や自宅前を毎日清掃しないといけなくなり大変で伐採して欲しいと考える人もいるでしょう。それを表に出して主張するかどうかは別としても心の中にはそんな思いが誰にでもあるでしょう。それが人間のエゴというものです。

小林氏の環境に対する政治姿勢は、「人が住むためには少なからず開発が必要でしょう?他の人のことも考えてください」という意識が根に深くあるのだと感じました。整理すると以下のように帰結したように思えます。

環境を守りたい → そういう、あなたの住居も環境破壊の上に建っている→ あなたの近くの他人が同じことをすることは認めないのですか? → 人類の発展には開発は必要、環境はあきらめざるを得ない

しかし、昭和や平成前半のバブル崩壊までならともかく人口減少、高齢化社会を迎えた令和の日本で 地方自治体の行政の長がこの考え方で 良いのでしょうか?法の縛りの中でビジネスとして開発する企業と環境を守りたい個人との衝突または個人間の衝突と、税金をつかって実施する大規模公共工事のあり方は話は別です。国、都、市の税金を使い、環境への影響も大きい事業は幅広い合意形成のもと慎重に進めなくてはいけません。とくに都市計画道路は、都市計画決定が60年以上前にされたものがそのまま現在も残っている例が多く、都市計画法や環境影響評価条例は、手続きを定めただけの法律になっているため行政の進め方がとても大事です。

最近の小平市の環境保全に関係する事業としては、 2019年から鷹の台公園、鎌倉公園、保存樹林の一部を買取など公園整備や緑地の確保に動き出した感じがあります。急に動き出した感があります。しかし環境と開発がぶつかる事案に対しては開発優先、見直しはしない、という姿勢で一貫しています。

2019年も都市計画道路小平3・3・3号線について、東京都の新まちづくり・みちづくりパートナー事業として、小川二丁目区間の事業をすすめるべく動き出しています。たかの街道の北側の観光資源にもなっている果樹園が多い農地に東西440m道路の整備を鎌倉街道から、府中街道までを2027年までに実施する計画です。東京都が2016年に優先的に整備する路線にしないという結論を出した区間にも拘わらず、小平市の方から手をあげて、東京都から予算をとってもらい事業化に向けて動きています。

整備の目的は、鎌倉公園のアクセスするための道路の確保や、新小平駅のまちづくりの促進、としていますが、事業説明会では、鎌倉公園について同席した水と緑と公園課は、部分開園もできると苦しい説明をしており、公園をつくる目的というより道路をつくるのが目的で公園をつくるように感じました。新小平駅前から、予定地まで340m離れており駅周辺まちづくりには寄与するとは言い難いです。詳しくは事業説明会に出席した際の様子をまとめたブログを参考にしてください。

また東京都は区市町村と共に10年ごとに都市計画道路の優先整備路線を決めて向こう10年間の整備をするという方針で2016年に第4次整備計画というものを発表しています。2016年に第4次整備計画で優先整備路線に相当しなかった路線について 2019年に改めて見直しを含む検討方針を発表しました。「東京における都市計画道路の在り方に関する基本方針」として公表されています。小平市内の未着手の都市計画道路の見直し、例えば玉川上水と交差する路線については、国の史跡である玉川上水と計画が重複することについて見直しをするチャンスがあったはずですが、残念ながら小平市の見直しのためのアクションはありませんでした。

最近も 小平監視所の東側の小平エリアの玉川上水緑道の雑木を伐採して小金井桜に植え替える東京都の事業が話題になっていますが、周知して市民の声を聴いて小平市としてどう対応すべきなのか、検討するような動きもありません。東京都にはかくもものが言えないでしょうか。

「そんなことはない。小林氏は玉川上水や、その他、環境保全に力をいれている」と感じられている方は、是非具体的に教えてください。

本書に一か所だけ政治家として小林氏の環境保全に対する成果をアピールしている記述があります。それは、3編2章にある「玉川上水の永久保存」にあります。当時の石原都政で都議時代のことで、玉川上水の史跡指定に関して、小林氏が都議会での質問が寄与したというアピールをされています。確かにたくさん質問しています。都議会の議事録で、「小林正則 玉川上水」を入れて検索すると、2001年から2003年にかけて質問がでてきます。 しかし、2020年の本書にアピールするなら、2005年からの14年間の市長としての玉川上水の取り組みをアピールしていただきたいところです。

さらに5編4章住民投票とは「結果を受けてのまとめ」では、選挙対策と住民運動との距離感に苦労(対立候補は都市計画道路建設推進派)とあって、自分は都市計画道路建設推進派ではないような記述もあります。

これらのことから読み取れるのは、小林氏は玉川上水など自然環境は守りたいという思いはあるもの、利害の調整が不得意、開発を求める東京都や住民と、自然環境・住環境を守りたい住民の間での利害調整が苦手であり回避する傾向にあると言えます。とくに、補助金、分担金などで都市計画道路以外にも小平市の事業に費用負担していて上位にいる東京都に対しては遠慮があるのか、ものを申しづらいようです。

小平3・2・8号線に対する小林氏と前任者の前田雅尚氏の取り組みの比較

都議時代の質問は玉川上水の史跡指定に寄与したかもしれませんが、その10年後に、玉川上水に対して、36mの大きな橋をかける計画が事業化される際は小平3・2・8号線計画に関する東京都の環境影響評価に対する市の意見は、ほとんど主張なく「環境に配慮して小平3・2・8号線をつくってください」というものでした。

政治家を長く続けていると、権限や財源の問題でどうにもならないこともたくさん見えてくるのは理解できます。小平3・2・8号線については、都施工ということもあり、「市で出来ることはない」と割り切りって思考や努力をいっさいストップさせています。では、何かほかにやれることはあるのですか?とこのブログを読んでくださった方は言われるかもしれません。しかし、小林氏の前任者の市長の前田雅尚氏は違いました。

東京都が、1995年に小平市に多摩主要南北道路の整備方針について(小平3・2・8号線の整備方針)について、小平市に提示して小平中央公園の体育館で住民説明会を行いました。このあと住民グループから、7つの陳情が出されました。

  • 都市計画道路(小平3・3・8号線)建設反対について【陳情7号】
  • 都市計画道路(小平3・3・8号線)建設 取りやめに関することについて【陳情9号】
  • 都市計画道路3・3・8号線(府中所沢線)の早期建設について【陳情37号】
  • 都市計画道路3・3・8号線 に係る小平市の方針等の市民公開について【陳情59号】
  • 都市計画道路小平3・3・8号線(府中所沢線)の 完全地下方式採用について 【陳情79号】
  • 都市計画道路小平3・3・8号線 の完全地下方式について【陳情86号線】
  • 都市計画道路小平3・3・8号線 の 建設について【陳情87号線】

7つのうち3つが反対するもの、1つが情報開示をもとめるもの、2つが地下化をもとめるもの、1つが早期建設を求めるものでした。

この住民の声を受けて、1997年当時の前田市長が地下案での検討を東京都建設局に要望したのでした。 前田氏は玉川上水の南側から、北側は将来小平3・3・3号線と交差する部分または、たかの街道までを地下案として検討して欲しいと要望しました。開発と環境が衝突する場合にもこのような解決方法は考えられるのです。地下案も環境を壊すという人もいるかもしれませんが、平面案で失うものより犠牲は少ないと言えるでしょう。

人類の発展のために開発は避けて通れない面がありますが、環境を守るために出来ることはやりつくすのが21世紀の先進国、日本の政治家の役割ではないでしょうか。前田氏は、1997年に、圧倒的な権限も財源も持っている東京都に地元住民の声を受けて要望しました。

しかし東京都は狡猾でした。この申し入れから10年間放置したのです。10年経つと住民は入れ替わります。そして市長も入れ替わります。ほとぼりが冷めたころ、10年経過した小林市政の一期目の2007年に東京都と小平市は行政連絡会という非公式な会議をもって、小平3・2・8号線の施工方法について2007年から足掛け3年協議をして、平面案、地下案、高架案の3つの方法でメリット・デメリットの検討をします。リンクにいまも検討資料や議事録は残っています。資料はまじめに検討しているように思えます。

行政連絡会資料【第3回】玉川上水横断部交差構造に関する比較検討(案)

最終的には、当初の予定通り平面案が良いという結論を出しました。それもそのはずで都と市の都市開発担当部署の担当者だけで検討した結果は、東京都が望む施工方式が平面案であれば、権限、財源力など力関係から言って、東京都案に収束するのは当然と言えるでしょう。こういう比較によって結論をだすのは、何に重きを置くかによりどんな結論に導くことも出来ます。検討資料や議事録を見る限り小林氏が打ち合わせに積極的に関与した痕跡はありません。 もし前田氏が市長であった10年前の1997年にこの行政連絡会をしていれば、簡単に平面案に収束しなかったでしょう。

住民投票に対する小林氏の理解について

本書の中では、過去に実施された例として、1996年新潟県巻町の原発の是非、1997年岐阜県御嵩町の廃棄物処理施設の建設の是非、2001年の徳島県吉野川の可動堰の建設の是非の住民投票について解説しています。

巻町では、町長を選挙で変えて、徳島市では市民運動したメンバーから3名市議として選挙で当選させて、議会構成を変えて住民投票にこぎつけています。御嵩町では町長が暴漢に襲われるという事件がありながら住民投票を実現しています。 住民投票のお手本のようになっている素晴らしい事例です。

徳島市の事例では一部の市議が50%成⽴要件の改正案を市議会に提出してのですがその条例を受け入れています。住民投票は、55%の投票率で成立要件をクリアして可動堰の計画を止めています。この徳島市の吉野川の住民投票条例を引き合いに出したのは、小平市の運動が35.17%で住民投票が成立しなかったことについては、50%成立要件をクリアをした徳島市と比較したかったのだと思われます。

小平市の事例については、4編1章「市民運動から直接請求制度」で、『私自身は直接請求制度に理念的に賛同するものの、今回の住民投票には過去の全国事例からも問う内容からも多くの疑義を感じた。今回の「住民投票は適当ではない」との市長としての付帯意見の表現は私の心のうちの葛藤を表している。直接請求や住民投票は市民の固有の権利としてその行使は侵されるものではないことは明白だ。しかし、市には都施工のため計画事業そのものに権限がない。加えて複数市にまたがる広域的な骨格幹線道路であり、小平市を除く他市の工事は大半が進捗していた。この現状の中で、議会に対し議案提出の際、義務付けられている市長の付託意見は「適当ではない」と結論付けるのは私としては精一杯だった。』とまとめています。

本書の本文の中では、肝心なことがかかれていません。 小平市長選挙の前の議会で住民投票条例可決後の2013年3月27日にマスコミのインタビューに「議会の意思を誠実に受け止めて市としてすべきことをしていく」と答えています。

市長選挙に37.28%の投票率の選挙に勝利した後に、 小平市が「50%未満なら成立しない」という条例案を出したのは小林氏でした。市としてすべきことが、 50%成立要件をつけることだったようです。しかしこの事実を本文にははっきりとは書いていません。この50%成立要件を出したことが運動をした私たちだけではなく多くの市民、マスコミや学者からも批判されました。

8編の最後に年表に、『4月24日「50%未満なら成立しない」という成立要件を加えた改正案を臨時会で可決』とさらりと書いていますが、誰が提案したかがわかりません。事実を知らない人が本書を読むと、小林氏のとった行動に何も問題なかったかのようにスルーされてしまうので、改めて指摘しておきます。小林氏が、50%成立要件条例改正を市長提案して市議会でも可決されたために住民投票に50%成立要件が付いたのです。

前半の記述、市には都施工のため計画事業そのものに権限がない、とありますが、意見が出来ないわけではありません。都市計画法の18条(都道府県の都市計画の決定)で、『 都道府県は、関係市町村の意見を聴き、かつ、都道府県都市計画審議会の議を経て、都市計画を決定するものとする。 』と記述されている通り、東京都に当事者である小平市に意見することは出来ます。

前任者の前田氏は、地下案での検討を東京都に要望しています。前田氏が用意した行政連絡会という機会があったにも関わらず後任者である小林氏は、何もしなかったというのが事実です。市民は、この行政連絡会に対して情報公開や市民参加を求めるべきでした。

他にも都施工に市が意見をする事例があります。お隣の小金井市では、西岡市長も2019年10月に国分寺崖線、武蔵野公園に計画されている都施工の都市計画道路の小金井3・4・1号線と小金井3・4・11号線について「市民の理解が十分に得られていないから現時点では事業化に賛同できない、事業化は進めないよう求めます」と小池知事に書面で要望しています。

さらに世田谷区では、都市計画道路補助第54号線(下北沢1期)及び下北沢駅駅前広場(世田谷区画街路第10号線)について、都市計画決定廃止の手続きはしていないものの保坂展人氏が区長の間は計画は動かないという微妙な状況ですが、 実質止まっている計画もあります。

小林氏がとりあげた過去の事例と、実施者/権限の関係を表にまとめました。どの事例も住民投票の実施自治体は権限をもっていなかったのが事実です。

住民投票は実施権限のあるものに対して行うべきという主張をする行政や議員もいますが、それは行政側が対応できないから困るという言い分から来るものですが住民が意思表示することに意味はあります。住民投票の事例の多くが自治体の権限を超えたものです。2016年以降に実施された住民投票の課題と解決についての「権限が及ばない事項の自治体による住民投票の課題と解決方法」では実施権限と、受益者と受苦者の関係やその意義についても沖縄県民投票を例にまとめています。興味ある方はご覧になってください。

表1.小林氏の「住民投票」で取り上げられた過去の事例と小平市住民投票

 

住民投票実施自治体

事案 結果 実施者/権限

新潟県巻町(1996年)

原発建設の賛否

投票率88.3%(反対60.9)

東北電力/通産省

岐阜県御嵩町(1997年) 産業廃棄物処理施設の設置の賛否 投票率87.5%(反対79.9%) 民間企業(寿和工業)/岐阜県
徳島市(2000年) 吉野川可動堰建設計画の賛否 投票率55.0%(反対91.6%) 建設省/国(建設省)
小平市(2013年) 小平3・2・8号線計画の住民参加による見直し 投票率35.17%(不成立、非公開) 東京都/国(国交省)

小平3・2・8号線住民投票に関する小林氏の理解について

小林氏は、5編2章で小平都市計画道路3・2・8号線で、 私達の住民投票の運動に関して、『今までの権利者中心の道路建設反対運動とは異質のものだった。抵抗・反対運動型から対案を示し緑地を守る保全運動型に変質した。当然地権者の中には違和感をもつ方もいたと聞く。更に大きく変わったのが、運動の主体が政党・政治団体が絡むプロの集団から主婦を中心としたアマチュアの女性だった。そしてこの人たちはかつて、私の立ち位置に比較的近い方々だった。加えて過激ではなくソフトで穏健なイメージ戦略だった』としています。

この部分はどういう意味かというと、かつて、自分が政治家になる前には環境を大事にしたいという思いがあったと言いたいのでしょう。2編1章に小林氏のいくつかの環境をもまる市民活動に関わったエピソードに触れています。石垣島の白保地区の飛行場滑走路の計画や、伊豆半島の三宅島の夜間離発着訓練基地を断念させた住民運動の紹介があり地元民が一致結束して冷静に運動して実現したと紹介しており小林氏も関わったと書いています。どう関与したかは記述がありませんのでわかりません。この頃の小林氏の考え方は、私たちの住民投票を求める運動に比較的近かったようです。

さて、小平3・2・8号線の住民投票をどのようにとらえているかを書く前に、住民投票に至るまでには長い歴史を簡単に書きます。まずは1962年の小平3・2・8号線の都市計画決定直後に始まり、後に事業取り止め訴訟を行った津田町一丁目の2号団地の住民による市議会、都議会に対する請願活動の時代、次に1995年の東京都の小平3・2・8号線の説明会に対して、住民からの7つの陳情が出されて、前市長の前田氏が地下案で検討するように東京都に申し入れた時代、そして最後に、私達の住民投票運動と3期に別けることができます。

市長である小林氏と向き合った私たちの運動は、小平3・2・8号線に関して見直しを求める署名活動、小平3・2・8号線に関して市民が話し合いをしてその意見を東京都に伝えてほしいという趣旨の請願運動、最後に小平3・2・8号線に関して住民投票を求める運動と大きく3つの運動がありました。

署名活動をしていたころ、当時市長の反応を見てみます。2010年の市報こだいらに10月1日号に「都市計画道路3・3・8号線の推進を図り」と市長のコメントを唐突に出しました。

都道小平3・3・8号線計画を考える会が、 2009年の市長選挙の際のマニフェストの約束を守り、東京都に住民の意見を反映させる十分な協議をするとともに、東京都に対し、十分な説明責任と住民合意を図るよう強く求めるように要望書を提出したのに対しての小林氏の反応はお決まりのお役所回答でした。

このような状況から市議会に対しての働きかけを行うことにしました。小平3・2・8号線に対して市民が話し合い意見を出せる場を持って欲しいという趣旨の請願を出して、一部修正されて小平市議会で全会一致で可決されて2012年4月から6月にかけてワークショップが開催されました。ワークショップの意見は、市から都には提出されましたが、何も配慮されないことが見えておりました。実際に、計画には考慮されることなく手続きは進んでいきました。

かくなる上は、法的な根拠がある運動をして、小平市を動かそうと考えて、住民投票を求める運動が始まります。

小林氏は5編3章の「問題点」の中で、住民投票内容、『賛否を問うものではなく「見直しをする」「見直しは必要ない」の不明瞭な選択で正確な住民の意思を測れない(見直しの幅が明瞭でない)』としています。まずこの記述は正確ではありません。市報こだいら2013年5月5日号から抜粋します。

市報こだいら2013年5月5日号 7面より抜粋

「住民参加により計画を見直す」「計画の見直しは必要ない」という二択です。 「住民参加により」がついていることはとても重要です。小平市に大きな影響を与える計画なのに住民の声は聴いてもらえないのですか、という住民参加を求める住民投票だったのです。小林氏が知らないわけがなく、本書で意図的に削除したものと思われます。

選択肢が是非ではなくはなくて不明瞭という指摘については、小平3・2・8号線の計画の是非を問う形にすれば、小平市に決定権限がないことに是非をつけることは出来ないという理由で、住民投票条例が市議会で否決されることは目に見えていました。「見直し」と幅を持たせたのは、住民投票運動をしていた時につくった配布資料に説明がありますので抜粋します。

小平3・2・8号線は北側は完成、南側は事業中で、中止することは難しいという都民・市民の声もあることは理解していました。資料の説明は以下の通りです。

「見直し」とは何か。「新しい道路は不要」「府中街道は改良すれば十分」「計画ルートを地下化して緑を残す」「ルートを変更する」など、たくさんの意見があります。広く市民の意見を集め、有識者のアドバイスも得ながら、より良い計画にするために、市と市民で熟議を重ねたいと思います。そして、住民の意思を反映した小平市の見直し案を作成し、事業者である東京都とも調整しながら結論を出したいと考えています。

住民投票カラー資料

小林氏が、 『不明瞭な選択で正確な住民の意思を測れない(見直しの幅が明瞭でない) 』と著書に書くのであれば、改めてご説明したいです。小平市長であるあなたが推進・容認・反対と様々な立場の住民とともに、玉川上水や雑木林などの自然環境や、閑静な住環境を守る、もしくは負担を軽減する計画を検討して、権限をもつ東京都に要望して欲しいという意味です。

なお、与党として⼩林⽒を⽀える⽴場にあった市議会会派フォーラム⼩平の幹事⻑だった常松⼤介⽒は、本書にあいさつ⽂を載せていますが、『市⻑選挙の後に加えられた成⽴要件については、明らかな⾏政側の後出しという⾒⽅があるのも承知していますし、私⾃⾝もその時点ではかなり腹⽴ちを覚えた記憶はあります。しかし、今となっては投票率が35%程度にとどまった⺠意を以って市民全体の⺠意とすることは、今話題のイギリスのEU離脱問題や憲法改正論議を⾒ても明らかです』としています。日本語がおかしいですが、原文のままです。恐らく、 「35%程度にとどまった⺠意を以って市民全体の⺠意とすることは (出来ないことは)…(略)…明らかです」と、言いたいようです。

直前の2013年4月の⼩平市⻑選挙では投票率37.28%、2017年4月の小平市長選挙では、投票率34.64%で住民投票の投票率を下回りました。2013年5月の住⺠投票の35.17%は投票率はそんなに低いでしょうか。 常松氏は50%成立要件は正しかったと後押しするようなコメントを寄せていますが、 住民投票の結果の判断基準には、他の方法がありますので事項で紹介したいと思います。

住民投票について50%成立条件の弊害とその代替案について

8編2章の「住⺠投票は万能ではない」で、『住⺠投票は使い⽅を間違えると運動が崩壊する、あくまでも議会制⺠主主義の補完的機能としてやるべきものだ』、という意⾒をして最後に少しだけ50%成⽴要件について記述しています。

『住⺠投票の成⽴要件の明確な基準はないが、投票に⾄るまでの経過から、どうしても運動に関わった⼈たちが中⼼的に投票⾏動をするから、むしろ運動に直接関わりを持たない冷静に問題を捉えている⽅々の投票の結果が重要だ。その為には、少なくとも半数以上の投票は⺠意の判定として譲れない。それ以下では⾏政判断として市⺠の総意としての信頼が得られない。』としています。

直接運動に関わりを持たない冷静に問題を捉えている方の意見が重要、まさにその通りです。しかし50%成⽴要件は、投票率を下げてしまいます。「 むしろ運動に直接関わりを持たない冷静に問題を捉えている⽅々 」のうち、住⺠参加による⾒直しに否定的な有権者は、投票には⾏きません。なぜなら50%に達しなければ、住⺠参加による⾒直しは起こりませんので⾃分の意図通りになるからです。50%投票率成立要件は、ボイコットを呼びかけなくてもボイコットを誘発するのです。実際に投票呼びかけの運動をしているときに「道路出来たほうが良いから投票⾏かないよ」と何度か⾔われました。

そもそもどんな投票率だとしても開票しないのは、投票に⾏った有権者に失礼ではないでしょうか。結果が有効であろうと無効であろうと、開票しないのでは住⺠投票から何も得るものがありません。

何故このような成⽴要件が日本ではまかりとおるのかというと、前述の通り徳島市に先例があります。さらに常設型住⺠投票条例といって、地⽅⾃治法の住⺠投票の1/50から、1/10〜1/2程度まで有権者の署名数の敷居をあげることによって議会の審議無しに住⺠投票をすることが出来る条例を持っている市があります。2001年に⽇本で初めて常設型住⺠投票条例をつくった⾼浜市が50%成⽴要件を⼊れたために、他市もお役所主義で追従してしまったことが要因です。この問題点については、2016年以降に実施された住⺠投票の課題と解決について の後半に、「投票率1/2以上の成⽴要件に阻まれた住⺠投票の課題と解決⽅法」について記述していますので興味のある⽅はご覧になってください。

諸外国の例はどうなっているのでしょうか。2010年と少し古いですが総務省が、地⽅⾏財政検討会議 第⼀分科会(第7回)各国の住⺠投票制度をまとめています。住⺠投票先進国のスイス、ドイツを始めとしてアメリカ、イギリス、フランス、イタリア、スウェーデン、韓国の制度が紹介されています。スイス、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、スウェーデンでは、成⽴要件はなく、有効投票数の過半数で成⽴します。ドイツは、州によって異なり投票結果の多い⽅の得票率が有権者の10から30%で成⽴となります。お隣の韓国は⽇本と同じような有権者の1/3の投票率の成⽴要件がありますが 有効過半数の過半数で成⽴ 結果は拘束的のようです。⺠主主義の完成度という意味で、⽇本と韓国は欧⽶諸国より遅れていると言えるでしょう。

⽇本の住⺠投票は、結果は拘束⼒がない諮問型とされています。⾸⻑が結果を請けて判断すれば良いのです。投票率が低いと感じたら、首長は低いなりの対応をすれば良いのです。その意味では成⽴要件は不要です。

基準がないと判断できないというのであれば、得票率によって判断するドイツの住⺠投票が参考になります。選択肢のうち得票率が多い意見が有権者の1/4以上の得票数となった場合は結果を尊重するという要件を付ければ良いのです。2019年2⽉に実施された沖縄県で実施された辺野古⽶軍基地建設のための埋⽴ての賛否を問う県⺠投票がこの⽅式でした。2015年の所沢市の住民投票も開票して1/3以上ならば尊重されるという条件がついていました。

小平の住民投票は、一定数以上の民意がなければと判断できないというのならば、開票の上で、「住民参加により計画を見直す」の得票率1/4以上だった場合、尊重されるという条例の改変であれば民意があきらかになり基準も明確になり、批判はされなかったでしょう。

なぜ1/4かというと、過半数(50%)の⼈が投票に⾏ってその過半数(50%)の⼈が、1つの選択肢を選んだことに相当するからです。50%成立要件をクリアした場合の過半数と言い換えられます。開票されるので投票結果がわかります。そして、住⺠投票を求めた市民団体の提案に否定的な市⺠も投票に⾏かないと⾃分の考えと逆の⽅針になるためにボイコット出来なくなり投票率もあがるのです。25%得票率尊重要件は、50%投票率成⽴要件よりすべての点において優れています。

実際に、小中学校の整備方針をテーマに2回住民投票を50%投票率成立要件をつけなかったために投票率が上がった例があります。熊本県和水町(なごみまち 2019年大河ドラマのいだてん主人公の金栗四三の出身地)、1回目は2013年に村長提案で成立要件をつけて実施して 投票率が28.93%で不成立、2回目は2016年議員提案で、成立要件なしで実施したケースでは、57.79%と投票率が大幅にあがっています。和水町総務部に問い合わせたところ、 「2回目に行われた住民投票は、投票率にかかわらず投票結果を今後の町政へ尊重させるために、住民投票の成立要件を定めてありません。」という回答でした。選択肢は異なりますが同じテーマでの住民投票で50%成立要件を外しただけで、大幅に投票率があがっています。

投票率50%成立要件(不成立・非開票)と、開票前提の得票率1/4尊重要件

住⺠投票はなんのため⾏うのでしょうか。ある事案についての⾃治体が⽅針を決める参考にする⽬的ですが、⼤きな意味で住⺠の考え⽅の変化を把握するアンケートのような意味もあります。ある⾃治体で⾏われた住⺠投票の結果は、他の⾃治体が政策を進める上で参考になる情報です。⼩平市の例では、もし開票されていれば、⼩平3・2・8号線についてだけではなく、東京都の多摩地区における都市計画道路の整備について市⺠がどう考えているのか、という51,010⼈のアンケートと⾔えるわけです。ところが、不成⽴・⾮開票となったため約3,100万円ほどの小平市の予算を使って実施したにも関わらずに得るものがゼロだったという残念な結果に終わってしまいました。

小平市の住民投票の2年後2015年8月27日、28日に実施した興味深いアンケートがあります。 早稲田大学の福地健治氏のインターネット アンケート調査です。株式会社マクロミルの登録者小平市民1,855人のうち、309人が母数のアンケートでは、小平の住民投票を知っていた人は80.1%、投票した人が54.1%、そのうち住民参加で計画を見直すべきを選択した人は64.4%でした。現実に投票に行った人に掛け合わせると、51,010人x 64.4% =32,850人となり、当時の有権者 145,024人のうち、22.6%が 住民参加で計画を見直すべき を選択した計算になります。1/4(25%)には届かない計算になりますが、現実はどうだったでしょうか。

⼩林⽒は、⼩平の住⺠投票について、7編1章8項に『その意味で⼩平市に於いては実⾏された住⺠投票はボイコット運動もなく、ビラ、パンフレット、ポスター、宣伝カーに⾄ってきわめて紳⼠的に⾏われた。⼩平市の品性と品格を改めて感じた。』と書いています。

確かに露⾻なボイコット運動はなかったですが、⼩林⽒ご本⼈は、マスコミのインタビューで、ボイコットを容認する発⾔をしていますボイコットが起こることも有権者の選択という言い方をしています。本人も50%成立要件はボイコットに繋がることを理解してます。

記者:50%の要件について議会でも決まったと思うんですけれども、ボイコット、建設に関する人がボイコットするんじゃないかという見方がありますけれどもその点についてはどうお考えでしょうか?

市長:私も、そういうことが有り得るのかなという風には思っておりましたが、現時点ではまったく、そういう動きはありません。今回のその、市長選挙は議会の選挙で私は37%でしたけども、なんでその、37と今度は50なのかというところの中にですね、私は選挙8回もやっておりますので、よく分かりますけど、非常に拘束力が強いんですね、選挙というのは。ところが、今回の住民投票の場合は、あまり、そういう制約がないんですよね。ですからボイコットも、ボイコットというとなかなか言葉がちょっと刺激的ですけども、逆に投票しない運動ですね。あるいは、そうですね投票しない運動っていうのもある面では成立するのかもしれないんですけども今回の場合は、私が知る限りではありません。ですから、そういう意味でボイコットもある面では規制がない以上、そういう運動もですね、今回の場合は許容できるってことです、はい。

記者:市長ご自身としては50%超えてほしいとお考えなんでしょうか?

市長:いや私はですね、今回、私は50%という成立要綱を設けて、今回のみなさんのそのメディアの扱いも50%超えるか超えないかってところを大きな争点にされておられますので、私は、私の発言がその流れを作ってしまうことになりますので、私自身はそれはちょっと控えさせていただければという風に思っております。

記者:今回の住民投票で、市長ご自身が、住民の50%を超えてですね、住民の意見を明らかにしてそれを聞くために、投票を呼び掛けるっていうことは考えてらっしゃらないんでしょうか。

市長:えっと、まぁ、あの今回の場合は、ある面では争点として、見直しをするのかしないのかってことは当然住民投票の性格柄そういうことに注目が集まる一方でですね、私の方で成立要件を設けたことで、50%超えるのかどうかってことも一つの争点になっております。ですから私の立場でですね、投票に行きましょうとか、投票を控えてくださいということを私自身が言ったらですね、投票条例そのものの中立性を私は維持できないと思うんですね。そんな風に私は思っておりますので、私は行くとか行かないとかってことは控えさせていただきたいと思ってます。

記者:50%の成立要件についてなんですけども、それを設けたことで、例えばその、見直さないという意思をもって、投票に行かなかった方の意思がもし仮に50%超えた場合に反映されないという事態が起こる可能性があると思います。つまり、投票率50%で、見直しの方が51%の票を取ったとします。その場合は25.5%の市民の意見が見直しということになりますけども、住民投票自体は成立してるわけですので、25.5%の人の意見が市の意見だということになると思うんです。仮に50%超えた場合の話です。で、その50%以外の方が、見直さないという意向で仮に投票に行かなかった場合、そういうちょっとあの、50%の線を引いたことによって、逆に見直さないという意思を持って投票に行かないということを制限することになってしまったと思うんです。このことについてのご意見があればいただきたいなというのと、ちょっとさっきの話と完全に確認になるんですけども、市長は投票日当日に、投票されるのかされないのか。

市長:選挙と今回の投票の違いというのは大きなものは、一票でも多く、選挙の場合投票した人は当選人ってなるんですよね。今回の場合は、あくまでも意向ですよね。市民のみなさんの、328(号線)に対する市民の総意を量るものでありますので、どちらかが多いから一票多いからそちらの意見が市を代表してるっていうことではないです。それは、仮に10対1だろうと10対2だろうと、あるいは9対10であろうと、これもすべての開票の数値が、小平市の総意として私は伝えて参りたいという風に思っております。それから、繰り返しになるのは私が投票に行くか行かないかというのはある面で今回、今おっしゃった通りで、今回は見直しをするか見直しをしないか等含めて、投票率というのも、いろいろ宣伝カーも回っておりますと、ボディとか宣伝カーの中でも50を超えましょうと、いったようなところを言っておられますので、そこは私が支持するとか支持しないとかっていうことを、投票に行くか行かないかっていうのはそういうことをある面で表すことになりますので、私は、控えさせていただきたいと思ってます。

※ 引用はこちら
小平市で5/26に実施される小平都市計画道路3・2・8号府中所沢線をめぐる住民投票について、5/20に行われた小林正則市長の会見の全文書き起こしの一部抜粋です。
【2013年5月20日(月)午後3時~於:小平市役所503会議室】

50%投票率成立要件がついた住民投票で、直接請求と⾔う市⺠が住⺠投票条例をつくり署名を集めて提案されたケースに限ると、徳島市(直接請求後に同じテーマで議員提案)、⼭陽⼩野⽥市、⼩平市、伊賀市(直接請求後に同じテーマで市⻑提案)、高浜市、輪島市の6件です。⼭陽⼩野⽥市、⾼浜市、輪島市は、常設型住⺠投票条例の規定に、伊賀市は⾃治基本条例の市⺠投票の規定に、50%投票率成⽴要件がありやむを得ない⾯がありました。徳島市以外は、いづれも不成立、非開票に終わっています。都内多摩地区の市に比べて地方都市の投票率は高いのですが、それでも直接請求における住民投票で50%投票率成立要件はとても高いハードルなのです。

徳島市は、議会のある会派から50%投票率成⽴要件の改変条例が提出されたのに対して、 直接請求した市⺠団体も議会構成を考えた上で、これ以上引き延ばしは出来ないと判断して50%投票率成⽴要件の改変条例を容認して、他の会派の議員も 改変条例 に賛成するように説得して議決された住民投票で、投票率55%を達成し住⺠投票を成功させた例でした。

市議は、複数人で市議会を構成をしており一部の有権者の票で当選することができるので、一部の市民の代表と言えます。個性のある市議が集まって構成される議会が全市民の代表でその議決が、市長の権限と同等なのです。それに対して市長は一人だけです。市長はどんな信条をもって当選しようとも、異なる考え方の市民の代表でもあるのです。意見の違う市民とも向き合わないといけない立場です。

市⺠が苦労の末に自分たちの主張を条例にまとめて、署名集めを⾏って住⺠投票条例を直接請求したのに対して、⾏政の⻑たる市⻑が 50%成⽴要件をつけた住⺠投票条例に改変して市民の意見を封殺したのは、後にも先にも⼩平市長の⼩林⽒のみであるということを明確にしておきたいと思います。

まとめ

  • 環境保全に関⼼を持っていた⼩林⽒は、議員秘書、市議、都議を経て、⼩平市⻑になるころには、開発と環境が衝突する事案については、開発を優先するという判断をするようになりました、というのが本書を読んでの私の見方です。
  • ⼩平3・2・8号線に対する東京都施⼯であるため⼩林⽒は権限がないという理由で、住⺠の声を聴くことはなかったですが、前任者の前⽥雅尚⽒は、住民の声を受けて東京都に対して地下案で検討するように要望をしてます。
  • 住⺠投票制度、直接請求制度に⼩林⽒は理念的に賛同するものの、⼩平市の住⺠投票は市長に権限がないので適当ではないと否定しています。⼩林⽒が本書でとりあげた他の⾃治体の住⺠投票の実施例についても、いずれも⾸⻑に権限がない事例で説得力がありません。
  • ⼩平 3・2・8 号線住⺠投票の投票の選択肢について⼩林⽒は正確に記述していません。 「計画を⾒直す」「⾒直しは必要ない」ではなくて、「住⺠参加により計画を⾒直す」という当事者である⼩平市⺠が住⺠参加を求める運動でした。
  • 住⺠投票に50%成⽴条件をつける改変をした⼩林⽒は、 運動に直接関わりを持たない冷静に問題を捉えている⽅々の投票の結果が重要で、少なくとも半数以上の投票は⺠意の判定として譲れないとしていますが、 50%成⽴条件は、住民参加による見直しに否定的な有権者はボイコットを選択すれば自分の目的を達成できるのでボイコットを誘発します。ご⾃⾝もメディアでボイコットを容認する発⾔をされていました。
  • 日本の住民投票は諮問型なので投票率に応じて首長が判断すれば良いのですが、基準が必要というならば投票率に条件を設けるではなく、どちらかの選択の多い方の得票率が1/4(25%)を超えたら、尊重するというような条件を条例に加える方法があります。ボイコットを招かず投票率は上がり、基準も明確になり、投票結果も開票されるため良い方法です。

以上(2020年3月20日)

    -住民投票, 小平市, 政治・社会
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    執筆者:


    1. 足立隆子 より:

      神尾さん、市長の書いた内容を全体に網羅し、とても丁寧に説明されていたと思います。私などは性格上ぱらぱらと読むだけで気分が悪くて、しっかり熟読しませんでした。
      市長は都合の悪い事柄には触れなかったり、ざっとしか言及していなくて、詳しい事情を知らない人は説得されてしまいそうですが、そんなことはない、おかしいとの感想を持ちました。でも、きちんと読み込んでいないことを申し訳なく思っていました。
      神尾さんがこのように把握して、市長とは違う立場から発言し、公開してくれたこと嬉しく思います。もやもやが晴れました。ありがとうございました。

      • kamihoo2011 より:

        有難うございます。既に読まれたんですね。何故この時期にこの本を出されたのか?よく分からないです。勇退されるのか、5期目を狙うのか。ドキュメントとして出されるなら正確に書いてほしいですね。

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    小平市在住の50代男性のkamihooです。40歳から本格的にフルマラソンの大会に参加し始めて、2017年11月に48歳で大田原マラソンでサブスリーを達成しました。自己ベストは2020年1月の勝田全国マラソンの2時間54分37秒です。「ジョグのねっとわーく」でランニング日記をkamihooのアカウントで公開しています。https://jogno.net/

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